「ロロ・ウーがこの町にやってきただと?」
「はい……町はずれの山中にアジトを構えていると」
「いつの間に! あの大所帯だぞ!?」
「わかりません……なんら情報は上がっていませんでした」
「奴は桃花源国仕込みの怪しい術を使うらしいからな」
「なぁに、心配いらんさ。なぁ! "先生"!」
部屋の隅で壁にもたれかかっていた男は「先生」と呼びかけられても微動だにしなかった。
――犯罪魔導師 ガイ・ザック
ガイは口の中で誰にも聞かれることなく呟いた。
「"背徳の道士"ロロ・ウー……」
◆
"道士"――それは桃花源国における神使教の僧兵である。
道士たちは"気"と呼ばれる生体エネルギーを使い、不思議な術"道術"を使う。
道士は徳を重んじ、道術は民の物である。
このポリシーは魔法圏でいうところの魔導師に通ずるものがある。
唯一、彼らが信じるのは魔法ではなく神であるということを除いて――
◆
黒い三日月アジト――
「ウーさん!
ロロはぼんやりと中空を見つめたまま答えた。
ロロ「いきつけのバー開拓」
この人に提案した自分が馬鹿だったと、取り巻きはため息をついた。
「じゃなくて! 港あり、人口ありのこんだけの立地だし、この街で仕事してた同業者は絶対黙ってませんて!」
ロロ「……じゃあ〜とりあえず、"一番"をつぶせば、他も大人しくなるだろ」
そうこなくっちゃ、と取り巻きはニヤリと笑った。
「そう言うと思って調べてありますよ」
「チーム"緑の海原"。規模は40名強。ボスは"謀略蜘蛛"グスタフ・リンシー」
ロロ「"謀略蜘蛛"……最近活動が派手なやつか」
「ええ、なんでも噂では魔導師がバックについたとか」
聞いているのかいないのか、ロロはいつものうすら笑いを浮かべた。
ロロ「準備が出来たら、さっそく挨拶に行くか」
「了ー解っ! じゃあ仲間に声かけてきます!」
嬉々として、取り巻きはロロの部屋を出て行った。
ロロは目の前の紅茶をすすり、カップをソーサの上に置いた。
ロロ「"帽子屋"対"蜘蛛"――」
ロロはニヤリと笑い、被っていた中折れ帽をカップの上にかぶせた。
ロロ「"帽子"をかぶせりゃ、すぐ苗床だ。やつら何色の花が咲くかな」
部屋に残り、ロロの紅茶のサーブをしていた取り巻きが、呆れたように言った。
「ウーさん。手配書の通り名、"イカレ帽子屋"じゃなくて"背徳の道士"のままッスよ。ギルドは変える気ないみたいッス」
※手配書は冒険者ギルドが発行する。
ロロ「俺が"イカレ帽子屋"だと思ってるから、それでいい」
「それじゃ誰も呼んでくれませんて……」
先ほど部屋を出た取り巻きが早くも戻ってきた。
「準備できました!」
ロロ「……おっしゃー……行くかぁ」
いつも通りの低く垂れこめたテンションのまま、だが、その目は爛々と子どものように輝いていた。
――― 黒い三日月(calm) ―――
2009.12.12 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.7.27(改)