9.5.calm prev next
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 「ロロ・ウーがこの町にやってきただと?」

 「はい……町はずれの山中にアジトを構えていると」

 「いつの間に! あの大所帯だぞ!?」

 「わかりません……なんら情報は上がっていませんでした」

 「奴は桃花源国仕込みの怪しい術を使うらしいからな」

 「なぁに、心配いらんさ。なぁ! "先生"!」

 部屋の隅で壁にもたれかかっていた男は「先生」と呼びかけられても微動だにしなかった。

 オールバック!

 ――犯罪魔導師 ガイ・ザック

 ガイは口の中で誰にも聞かれることなく呟いた。

 「"背徳の道士"ロロ・ウー……」




 ◆


 "道士"――それは桃花源国における神使教の僧兵である。

 道士たちは"気"と呼ばれる生体エネルギーを使い、不思議な術"道術"を使う。

 道士は徳を重んじ、道術は民の物である。

 このポリシーは魔法圏でいうところの魔導師に通ずるものがある。

 唯一、彼らが信じるのは魔法ではなく神であるということを除いて――




 ◆


 黒い三日月アジト――

 「ウーさん! ファリアスここで始めにやることなんスけど」

 ロロはぼんやりと中空を見つめたまま答えた。

 ロロ「いきつけのバー開拓」

 この人に提案した自分が馬鹿だったと、取り巻きはため息をついた。

 「じゃなくて! 港あり、人口ありのこんだけの立地だし、この街で仕事してた同業者は絶対黙ってませんて!」

 ロロ「……じゃあ〜とりあえず、"一番"をつぶせば、他も大人しくなるだろ」

 そうこなくっちゃ、と取り巻きはニヤリと笑った。

 「そう言うと思って調べてありますよ」




 「チーム"緑の海原"。規模は40名強。ボスは"謀略蜘蛛"グスタフ・リンシー」

 ロロ「"謀略蜘蛛"……最近活動が派手なやつか」

 「ええ、なんでも噂では魔導師がバックについたとか」

 聞いているのかいないのか、ロロはいつものうすら笑いを浮かべた。

 ロロ「準備が出来たら、さっそく挨拶に行くか」

 「了ー解っ! じゃあ仲間に声かけてきます!」

 嬉々として、取り巻きはロロの部屋を出て行った。




 ロロは目の前の紅茶をすすり、カップをソーサの上に置いた。

 ロロ「"帽子屋"対"蜘蛛"――」

 ロロはニヤリと笑い、被っていた中折れ帽をカップの上にかぶせた。

 ロロ「"帽子"をかぶせりゃ、すぐ苗床だ。やつら何色の花が咲くかな」

 部屋に残り、ロロの紅茶のサーブをしていた取り巻きが、呆れたように言った。

 「ウーさん。手配書の通り名、"イカレ帽子屋"じゃなくて"背徳の道士"のままッスよ。ギルドは変える気ないみたいッス」
 ※手配書は冒険者ギルドが発行する。

 ロロ「俺が"イカレ帽子屋"だと思ってるから、それでいい」

 「それじゃ誰も呼んでくれませんて……」

 先ほど部屋を出た取り巻きが早くも戻ってきた。

 「準備できました!」

 ロロ「……おっしゃー……行くかぁ」

 いつも通りの低く垂れこめたテンションのまま、だが、その目は爛々と子どものように輝いていた。






―――  黒い三日月(calm) ―――





2009.12.12 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.7.27(改)