9.6.orange prev next
back


 「頭! 頭ぁ!」

 夜も明け切らぬ闇の中、突然開いたドアから部下の慌てきった大声。

 魔薬チーム"緑の海原"の頭、"謀略蜘蛛"グスタフ・リンシーはウンザリしながら、まだ起ききらぬ体を起こした。

 グスタフ「何事だ、こんな時間に」

 部下の上ずった、泣きそうな声がグスタフの耳を突き刺した。

 「"黒い三日月"が! 奇襲をかけてきましたぁ!」

 まるで頭をガツンと殴られたかのような目の覚め方。グスタフは震える手でガウンを羽織った。

 グスタフ「……ガイを呼べ……!」




 「おらおらァ! どうした! こんなもんかァ!?」

 突然の夜襲に、まだ半分眠っている体は思うように動かず、"緑の海原"のメンバーたちはバタバタと倒されていった。

 アジトに火をかけ、丸腰のままあぶり出したところを一網打尽――黒い三日月のリーダー、ロロ・ウーは薄ら笑いを浮かべながら取り巻きたちの活躍を紅茶をすすり、楽しそうに眺めていた。

 ロロ「……ん?」


 風の精霊がざわめく。




 突然、爆発が起こりアジトの壁が吹き飛んだ。

 ぽっかり空いた穴の奥から屈強な長身のオールバックの男――"緑の海原"の雇われ犯罪魔導師、ガイ・ザックが姿を現した。

 ガイ「……爆炎魔法使い相手に火責めとはいい度胸だな」

 そうして黒い三日月のメンバーたちへ向けられた手。集まる火と風の精霊たち。

 ガイ「小爆炎グラン・デ

 襲い来る光弾。紅茶のカップの影でニヤリと釣りあがる口。

 黒い三日月のメンバーたちの目の前には中空に浮かぶ、白く光る"穴"。その中に光弾は吸い込まれていった。

 ガイ「なんだ!?」

 爆発も起きず、黒い三日月のメンバーたちは何事もなかったかのように戦い続けていた。

 ロロ「反転如律令ルミナスターン

 "白い穴"から光弾が飛び出し、ガイを直撃した。激しい爆発が巻き起こった。

 同時に"白い穴"はたちまち数枚の札となり、ヒラヒラと舞い落ちた。

 ガイ「これが道術か……なるほど魔法に酷似している」

ロロVSガイ

 ロロの頭上に振りかざされた剣。

 振り下ろされたガイの剣を、ロロは帽子を押さえながら軽々と避けた。

 2人は間合いをとった。



 ロロはいつもの薄ら笑いを浮かべた。

 ロロ「あれ〜……当たったと思ったのに」

 仕切り直すように、ガイは剣をクルリと回した。

 ガイ「こちらのセリフだ、気色の悪い術を使いおって」

 ロロは両腕を広げた。併せてガイも剣を構えた。

 ガイ(何か来る…!)

 無意識に、剣を握る手に汗が湧いた。

 ロロ「おれからすれば、魔法のほうが気色悪いけどな。悪魔の力なんか借りちゃって、精霊の流れを無理やり歪める。神使教がキレんのも無理ないな」

 ガイ「神使教徒のクセに他人ごとのようだな」

 ロロの薄ら笑いは崩れなかった。

 ロロ「お前、神に逢ったことはあるか?」

 ガイ「俺は魔導師だ。神など信じん」

 ロロ「……そうか」

 その回答に満足したように、ロロは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ロロ「信じない者は救われない」

 ガイは中空を見つめたままあんぐりと口を開け、構えていた腕を降ろした。



 ロロ「極楽転心如律令ア・マッド・ティーパーティー





ロロ「かといって、信じる者も救われるわけじゃない」


――救われるのは


   "パラダイス"で生き残ってるヤツだけだ――




 「ウーさん! 謀略蜘蛛! 捕まえちゃいましたよー!」

 報告に来た取り巻きは、ロロの足元で意味不明な言葉を繰り返し泡を吹きながら倒れているガイを見つけた。

 「あーあー、こいつ、もう苗床になんないじゃないすか!」

 ごめんごめんとロロは笑った。

 ロロ「ここのヘッドだけでも十分面白れぇからいいじゃねえか。魔導師はつまらないリアリストばっかりだ」

 「んじゃあ、帰りましょうか」

 ロロ「ああ」


 即日、魔薬チーム"黒い三日月"がファリアスの町の魔薬事情を牛耳ることとなった。





―――  黒い三日月(orange) ―――





2009.12.19 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.7.30(改)