9.3.paradise prev next
back


 ガヤガヤと楽しそうな笑い声が響き、夜だというのに活気が溢れる、その町で人気の酒場。

 その隅で、溢れる活気もヒラリと避ける、一人酒を楽しむ帽子の男――ロロ・ウー。

 そこに近寄る派手な格好の女が二人。

 「お兄さん、一人?」

 「ああ……」

 「一緒にどう?」

 女の一人が持っていた酒瓶を振って見せた。




 「……どうぞお好きに。二人も女神みたいな美人に囲まれたら酒も進むよ」

 「まあ、女神だなんて、うれしいわ」

 女たちはロロからグラスを奪うと、入っていた酒を飲み干し、持ってきた酒を注いでロロの目の前に置き、二コリと艶っぽく笑った。

 「キツい女神様だな。ところであんたら、逆に"神様にはあったことあるかい"?」
 
 女たちはケラケラと笑い、ロロの端正な顔や胸元をジロジロと見つめた。
 
 「残念ながら……あんたは神様みたいにイイ男だけどね、どうせなら生身の人間がいいわ」
 
 ロロはだるそうにグラスを取り、酒を一気に飲み干した。

 女たちは黄色い歓声を上げた。

 「わぁ! すごい! これ結構強いのよ! 私たちならその半分で夢の中だわ!」

 「……夢の中……」

 ロロはニヤリといつもの薄ら笑いを浮かべた。



 「たしかに、"そんな薬"クセェ酒だ」

 その一言を合図に女たちは一斉に立ち上がった。

 「あんた、"黒い三日月"のヘッドのロロ・ウーだね!」

 「……賞金稼ぎか」

 「正〜解♡」

 ロロの手からグラスがこぼれおち、パリンと音を立てて床で砕けた。

 「意識が遠のいてきたでしょ? 即効性の睡眠薬だよ」

 なおもニヤニヤしながら、やがて俯き、とうとうロロは椅子にもたれた。

 「あっけないねぇ! 今頃あんたのアジトも仲間が奇襲中さ」

 ロロの口から笑みが消えた。

 「薬で落ちたか……」

 それは突然のことだった。

 二人のうち、一人が突然ひっくり返った。

 「え……」

 ロロは椅子から立ち上がり、残った女の顔の前に手をかざした。

 ロロ

 ひっくり返った女は口から泡を吹き、涙を流しながら意味不明な言葉を繰り返していた。

 「な……なに!?」

 「おれのモンに手ェ出すなんて、バカなやつらだなぁ」

 ◆

 ロロが去った後の店は、水を打ったように静かだった。

 店主をぼやくように呟いた。

 「"あの人"怒らすなんて、バカな賞金稼ぎだ。魔導師ですら、敵わねぇってのに」

 ロロがいた席の傍には、女が二人、転がっていた。



 「あ! ウーさん! お帰りなさい!」

 「遅いッスよ、ウーさん」

 「なんだ、片付けちまいやがったか」

 ロロ達に取り囲まれ、十人ほどの男たちが縄でグルグル巻きにされていた。

 取り巻きの一人が心配そうにロロに声をかけた。

 「一応聞いときますけど、大丈夫でした?」

 さもまずいものを食べたかのように、ロロは舌を突き出した。

 「ああ、おれんとこは女が2人、睡眠薬入りの酒飲ませてきやがった」

 周囲に笑い声が起こった。

 「ハハハ、ウーさんに"薬"なんて効くはずないのに!」

 「どうします? こいつら」

 「全員男か……」

 ロロはニヤリといつものうすら笑いを浮かべた。

 「"プランター"に。どいつに一番早く"華"が咲くか、賭けだ」

 「ギャハハ! いいっすね〜!」

 「じゃあ、早速"プランター"に」

 捕らわれた男たちはアジトの地下へと連れて行かれた。

 徐に、ロロは大きなため息をついた。

 「どうしました?」



 「お前らケガねぇな?」

 「ハハ! あんな三流相手!」

 「ウーさんの"アジトパラダイス"は何があっても守りますよ」

 ロロは愛おしいものを愛でるように、微笑んだ。

 「頼もしい"仲間たちパラダイス"だ。おれは幸せ者だな」





―――  黒い三日月(paradise) ―――





2009.11.28 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.7.23(改)