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 "魔薬ドラッグ"――

 それは人を快楽という名の破滅へ導き、養分として咲き誇る"華"だ。

 ロロ・ウーは床の上に広げられた色とりどりの"ラムネ菓子"を、しゃがみ込んで満足そうに眺めていた。

 人差し指をそのうちの一つに押し当て横に動かし、

 「あー! ちょっと! ウーさん!」

 部屋に入ってきたロロの取り巻きが、あわててロロに駆け寄った。

 「せっかく種類ごとに分けてんのに!」

 ひまつぶし

 取り巻きの視線の先――ロロの指の先には色とりどりの"ラムネ菓子"を並べて作られた"華"の形。

 ロロは薄ら笑いを浮かべた。



 パンゲア大陸の魔薬市場は他とは比べ物にならない規模である。

 種類や量によって、個人に月々数千万の収入をもたらす、いわば、裏社会ドリーム。

 中でも月々億を超える売り上げを叩きだすのが魔薬グループ"黒い三日月"――

 そのリーダー、ロロ・ウーはパンゲア大陸の裏社会において、その名を知らぬ者はいない"イカレ野郎"として有名だった。



 ◆

 「た、頼む! 命だけは!」

 自分たちを狙ってやってきた賞金稼ぎたちを返り討ちにし、追い詰めた最後の一人。

 ロロは口の端をつり上げた。

 ロロ「……なら、"生ける屍"ならいいのか?」

 次いで命乞いをする男の顎をひっつかみ、持っていたラムネ菓子が詰まったビンの蓋を開けると、男の口に瓶ごと押し込んだ。

 そうして男に"華"が咲く様を、数日かけて楽しむのだ。

 無理やり"客"を作る、それが月億越えのやりかただった。


 "華"が咲いてしまうと、ロロの興味はとたんに冷める。

 あとは、取り巻きどもが"華"の財産をしゃぶりとる。

 次の"苗床"が見つかるまで、ロロはただただぼんやりと中空を見つめ、日がな一日を過ごすのだ。

 ヒマになると、彼は口癖のように、毎度同じことを言う。

 ロロ「次はエルフの男がいいな……」



 ◆

 エオル「へっくし!」

 フィード「てめっ! くしゃみはうつるんだぞ!」

エオル「……それはあくび」

フィード「盛大なくしゃみだな、きったね〜!」

うるせーうるせーとフィードは迷惑そうに耳を塞いだ。

エオルは鼻をすすった。

エオル(なんか……たまーにこの"盛大なくしゃみ"って出るんだよな〜……何かのアレルギーかな……やだなあ……)





―――  黒い三日月(seedbed) ―――





2009.11.21 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.7.4(改)