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 大砂瀑布東部の村 カナ。
 人口三百人程度の小さな集落。

 魔導師協会よりW・B・アライランス捜索の命を受け、ヤクトミは大砂瀑布東部の町から順に、虱潰しに情報を探っていた。

 ヤクトミ(砂の大河以北の町を、ガルフィンゼミの中から俺含めて5人……俺はここで3箇所目……いずれも有力情報なし。東はハズレだったか……)

 などとボヤキを頭の中で反芻しながら、半日ほどでこの村での捜索も終わった。

 村を出ようと村のメインストリートに差し掛かった時、村で唯一の雑貨屋の前に人だかりが出来ていることに気づいた。

 ヤクトミ(何だ?)

 何事かと覗くと、そこには縄で縛られ、店主から殴られたり水をかけられたりしている少女が目に入った。




 ヤクトミ「な! 何やってんですか!」

 店主は助けてくれと言わんばかりの視線をヤクトミに向けた。

 店主「こいつ、店から食い物盗ろうとしたんだよ。被害者はこっちさ」

 そう言いながら「これを見てくれよ」と見せられた店主の手の中には小さなアメ玉。

 ヤクトミは少女に目をやった。

 ガリガリに痩せ細り、まるで骸骨のようなその形相は、どこかうつろで、荒んでいた。




 ヤクトミは店主に金を払い、少女を許すよう説得した。

 やがて、人だかりは消え、ポツンとヤクトミと少女のみが残った。

 ヤクトミはヤレヤレと少女を見た。

 ヤクトミ「どんなことがあっても、人から物を奪うなんてダメだぞ」

 少女はヤクトミを睨みつけた。

 少女「やっぱりお金なのね……」

 ヤクトミ「何が?」

 少女「なんでもかんでも、この世の全てがよ! 人の命救うのも、人が自由でいられるのも、人が生きていくのも、全部! 全部お金次第!」

 ヤクトミは少女の剣幕に押されながらも、なんとか口を開いた。

 ヤクトミ「……悲しいこと言うなよ……」

 少女は間髪入れず言い返した。

 少女「本当のことよ。もしそれが悲しいことって言うなら、真実っていうのはすべて悲劇ね」

 ヤクトミはアレコレ考え、どういう言い方をすれば少女を怒らせず、前向きにできるか、言葉を選んだ。

 ヤクトミ「それは……今がどん底だからさ、きっと。ちゃんと働いて、生活の基盤を立てれば……」

 少女「生活の基盤? 私はイヤよ、金に縛られる生活なんて。だったらアンタの言うどん底でいい! どん底とか、どん底が悲しいとか、アンタみたいなやつが一番ムカつく!」

 ただ茫然と、ヤクトミは少女を見つめるしかなかった。
 
 ヤクトミ(な……なんでここまで俺言われてるんだ……)

 少女「……アンタ獣人?」

 少女はヤクトミに尻尾が生えていることに気づいた。


 ヤクトミ「……まぁ」

 少女は二コリと笑った。

 少女「私もよ。猫の獣人なの」

 その言葉で、ヤクトミは少女がなぜこのような生活に陥っているのか、ようやく理解した。

 少女「あっ! これ!」

 次に少女はヤクトミの胸ポケットから覗く学生証を見つけ、指差した。

 ヤクトミ「ああ、俺魔導師の卵なんだ」

 少女は目を輝かせた。

 少女「あたしを身売りから解放してくれたのも、魔導師だよ! シャンドラさんとエオルさんっていうんだけど……あんた知らない?」
   
 ヤクトミ「え……」


 ヤクトミは少女の肩を掴んだ。

 ヤクトミ「どこで!? いつ会った!?」

 少女「は……? あんた、本当に知り合いなんだ?」

 ヤクトミ「そうだけど……どこで会ったんだ? 今探しているんだ!」

 少女はなんなのよ、と文句を言いながらも、答えた。

 少女「砂漠のど真ん中。カーシーまで一緒だったけど……」

 ヤクトミは肩を落とした。

 ヤクトミ(カーシー……アートリーからの移動中か……)

 少女「ねえ!」

 ヤクトミは顔を上げた。

 少女「あの人たちと会うの!? 私も会いたいんだけど、連れてって!」

 ヤクトミはため息をついた。

 ヤクトミ「遊びに行くわけじゃ……」

 少女「あたしラプリィ! よろしくね」

 ヤクトミ「おい……ちょっと」

 少女「そうと決まれば早く……」

 少し沈黙をおいて、ラプリィは急に倒れた。ヤクトミは慌ててラプリィを抱えた。

 ヤクトミ「おい……!」

 ラプリィ「お……おなかが減って力が出ない……」

 ヤクトミ(低血糖……。そのくせテンションあげるから……)

 ヤクトミはため息をつき、ガルフィンの言葉を思い出した。

 "乗り掛かった船は最後まで責任持て"

はぁ……
 ヤクトミは天を仰いで再びため息をついた。





――― from the bottom(閑話) ―――





2009.9.12 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.1.18(改)