6.1.good relationship between teacher and student prev next
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 マリア「いやー! よかったわ! 呑みに行く時間がとれて!」

 リケ「あんたが無理やり引っ張ってきたんでしょーがっ!」

 パンゲア大陸 ヴァルハラ帝国 首都アヴァロン とある居酒屋の一角――

 マリアはジョッキになみなみと注がれた酒をグイと一気に飲み干した。

 マリア「っかーーーーっ!」

 ドカリとジョッキをテーブルに置くと、さっさと店員を捕まえて次の注文をはじめた。

 そんなマリアの様子に、リケは眉間を抑えてぼそりと呟いた。
 
 リケ(あー……これはグチレベル"カオス"だわ……)

 その呟きに、隣のトウジロウはギクリとリケに視線を向けた。
 
 トウジロウ(オイ! カオスてなんやねん!)

 そのトウジロウの慌てふためきように、今度はシェンが、苦笑しながらマリアの様子を改めて観察した。
 
 シェン(なんかやな予感すんなー)

 マリア「ちょっと! なにコソコソ話してんのよっ!」

 トウジロウは立ち上がった。

 トウジロウ「なんでアヴァロンここまで出てきて色気ないトコおらなあかんねん。別の店行くわ」

 矢面が減っては困るとリケとシェンは慌ててトウジロウを引き留めた。
 
 リケ「なーっ! トウジロウさんっ! 困りますっ!」

 シェン「そうだぞっ! 上司を置いて逃げんなモモッ!」

 マリア「困るだの逃げるだの、なんなのよアンタたちはっ!」

 マリアはトウジロウを睨みつけ、人差し指を下に向けた。

 マリア「おすわり」

 トウジロウ(はー……こら逃げてもややこしなんな……)

 トウジロウはため息をついて腰をおろした。




 ――間――

 マリア「でさー! ……って聞いてる? リケ! ちょっと!」

 マリアは隣でテーブルに突っ伏しているリケの頭をベシベシと叩いた。

 しかし、リケは起きる様子もない。

 マリア「リーくーん」

 今度は向かいで口をあんぐりと開け、椅子の背に頭を乗せて寝息を立てているシェンにピーナッツを投げつけた。

 しかし、シェンも目を覚ます気配がない。

 トウジロウ「やめとけ、疲れてて酒のまわり早なってんねん」

 マリア「リケはいいとして、なんでリーくんまでー!?」

 トウジロウはリケを顎で指しながら答えた。

 トウジロウ「オレが将軍キングの仕事手ェつけてへんかってん。そいつピスドローと違てな」

 マリア「ひどい子ねー。キング不在の時は副将軍エースが代理でやるんじゃないの」

 トウジロウ「知るかいな」

 トウジロウはテーブルに大きな足をのせ、だるそうにグラスをまわした。

 トウジロウ「で?」




 マリア「何?」

 トウジロウはグラスに目を落したまま、しかし真面目な声色で続けた。

 トウジロウ「ピスドローはともかく、オレまで呼ぶとか、どーせシュナウツァー(キリス)のアホとまた何かあってんやろ?」

 マリアは笑った。

 マリア「聡い子ね、やっぱりアンタは」

 トウジロウ「……普通に考えたらわかるわ」

 マリアが手をかけようとしたジョッキを、トウジロウは器用に足先で遠ざけた。

 マリア「何すんのよ、行儀の悪い子ね」

 トウジロウ「酒に逃げたかて何もならへんで。マジメなグチはマジメに吐け」

 マリアは長く深いため息をつき、椅子にもたれかかった。

 マリア「あんたって子はホント……」

 トウジロウはマリアを見た。

 マリアもトウジロウを見た。

 沈黙が続いた。




 マリアは笑ってテーブルに寄りかかった。

 マリア「あいつがさ、何でか私のヒミツ知っててさあ」

 トウジロウ「あー、元旦那?」

 マリア「……あと、私がスペリアル・マスターをやってる……理由じゃないけど理由みたいなもの」

 トウジロウ「お前、ヒミツ多い女やなー」

 マリア「女は誰しもいろんなヒミツを持ってんのよ」

 トウジロウ「で、そのヒミツとやらつつかれたワケか」

 マリア「そ……しかも会議中に! あたしもカッとなっちゃってさー」

 トウジロウ「そらカイチョーのカミナリ落ちたな」

 マリア「そー! もー、いい年して口喧嘩して上からどやされて、超赤っ恥!」

 トウジロウはゲラゲラと笑った。

 トウジロウ「ガキか!」

 マリア「うっさいなー! もーっ!」

 マリアはチラリとトウジロウを見た。

 マリア「…その私がスペリアルマスターになった理由って秘密、聞かないの?」

 トウジロウ「別に興味ナイな。"今"ソコソコ割と立派にスペリアルマスターやってんねんから、それでええやん」

 理由なんて、と付け足し、トウジロウはグラスを一気に飲み干した。




 マリアは目を瞑った。

 ――失敗を笑い飛ばして気にさせなくしてくれる。

 ――ヒミツだと言ったこと、あえて聞かずにいてくれる。

 ――アンタのそういう、なんとなくのやさしさに触れたかった。

 ――それがアンタを呼んだ理由よ。

 毒々しいww
 マリアはほほ笑んだ。

 トウジロウ「なんや気味悪い」

 マリア「ダメな先生ね。教え子に甘えるなんて」

 トウジロウは鼻で笑った。

 トウジロウ「ガッコ出たら上も下もカンケーない社会人やで。教え子がいつまでたってもガキや思てる方がよっぽどダメなセンコーやな」

 マリア「キー! 自分以外にダメな先生とか言われたらハラ立つわっ!」

 トウジロウ「ほな、ダメオバハン」

 マリア「なんですってーーー!!」

 眠らない都アヴァロンの夜は更けてゆく――





――― good relationship between teacher and student(閑話) ―――





2009.9.5 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.1.18(改)