5.4.the man, his name is … prev next
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 その男の通る道は風が通る道






 パンゲア大陸 桃花源国 北西部 崑崙山 山中

 男が一人、火をおこしていた。

 火が付くと、男は持っていた大きな麻袋をひょいと火の中に放り込んだ。

 ゆっくりと、麻袋は炭となり、灰となった。

 やがて、火も消え、灰は風と共に舞い散った。

 男は口を開いた。

 「鈴々リンリン、今日、何日だっけ?」




 男の肩に、ふわりと手のひらほどの丸い光が舞い降りた。

 光の中には、翅が生えた、人差し指程の大きさの妖精の少女。

 少女は男の肩に座り、ヤレヤレと呆れたようにため息をつき、足と腕を組んだ。

 「"休暇明け初"日だよ!」

 男は「アレ?」と苦笑いした。

 「……そうだっけ?」

 少女は冷ややかな目で男を見た。




 少女は組んだ膝に頬杖をついた。

 「"マジックワープ"使っても、完全に遅刻だね〜こりゃ」

 「やっべぇ!」

 男は慌ててかけ出した。


 彼を追うように、風も駆け出す。


 少女は"風を見ながら"、嫌そうな表情を浮かべ、男に問うた。  「魔法、使っちゃえば?」

 「ダーメッ! 魔法って自分一人のためには使っちゃいけないの!」

 少女は口を尖らせた。
 「……いいじゃん、ちょっとくらい」

 「俺がそんなだと、"示し"がつかないだろー? なんだよ、どした?」

 男は自分の顔の横をふわふわと飛ぶ、むすっとした少女を横目で見た。

 少女はうつむいた。
 「……この山の精霊、みんなあなたのこと好きだから」

 少女は恨めしそうに"風を睨んだ"。

 男は笑った。
 「別に精霊たちこいつらは悪さしないよ」

 「そうじゃないって! もうっ!」

 少女は男の顔の前でピタリと止まった。

 合わせて男も走るのを止めた。


 少女は切なそうに、男の顔の右上から左下にわたる大きな傷跡を撫でた。


 男のこげ茶色の髪を、風も撫ぜる。


 灰色の瞳はキョトンと少女を見つめた。

 男の純朴な瞳に、少女は頬をふくらませ、男にでこピンした。男は額をさすり、声をあげていつものように屈託なく笑った。

 「小っさすぎて痛くねー」

 男はニコリと少女に微笑んだ。

 「ほら、早く戻るぞ! トランプ本部に」


 その男の通る道は風が通る道。
 彼は風。
 行く先で、新たな風を吹き込む。

 その名は ――リー・シェン


 対魔導師犯罪警察組織「トランプ」 対魔導師犯罪第1軍「スペード」 将軍キング――

スペードのキング




――― the man, his name is … (閑話) ―――





2009.7.18 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2011.12.21(改)