その男の通る道は風が通る道
パンゲア大陸 桃花源国 北西部 崑崙山 山中
男が一人、火をおこしていた。
火が付くと、男は持っていた大きな麻袋をひょいと火の中に放り込んだ。
ゆっくりと、麻袋は炭となり、灰となった。
やがて、火も消え、灰は風と共に舞い散った。
男は口を開いた。
「
男の肩に、ふわりと手のひらほどの丸い光が舞い降りた。
光の中には、翅が生えた、人差し指程の大きさの妖精の少女。
少女は男の肩に座り、ヤレヤレと呆れたようにため息をつき、足と腕を組んだ。
「"休暇明け初"日だよ!」
男は「アレ?」と苦笑いした。
「……そうだっけ?」
少女は冷ややかな目で男を見た。
少女は組んだ膝に頬杖をついた。
「"マジックワープ"使っても、完全に遅刻だね〜こりゃ」
「やっべぇ!」
男は慌ててかけ出した。
彼を追うように、風も駆け出す。
少女は"風を見ながら"、嫌そうな表情を浮かべ、男に問うた。 「魔法、使っちゃえば?」
「ダーメッ! 魔法って自分一人のためには使っちゃいけないの!」
少女は口を尖らせた。
「……いいじゃん、ちょっとくらい」
「俺がそんなだと、"示し"がつかないだろー? なんだよ、どした?」
男は自分の顔の横をふわふわと飛ぶ、むすっとした少女を横目で見た。
少女はうつむいた。
「……この山の精霊、みんなあなたのこと好きだから」
少女は恨めしそうに"風を睨んだ"。
男は笑った。
「別に
「そうじゃないって! もうっ!」
少女は男の顔の前でピタリと止まった。
合わせて男も走るのを止めた。
少女は切なそうに、男の顔の右上から左下にわたる大きな傷跡を撫でた。
男のこげ茶色の髪を、風も撫ぜる。
灰色の瞳はキョトンと少女を見つめた。
男の純朴な瞳に、少女は頬をふくらませ、男にでこピンした。男は額をさすり、声をあげていつものように屈託なく笑った。
「小っさすぎて痛くねー」
男はニコリと少女に微笑んだ。
「ほら、早く戻るぞ! トランプ本部に」
その男の通る道は風が通る道。
彼は風。
行く先で、新たな風を吹き込む。
その名は ――リー・シェン
対魔導師犯罪警察組織「トランプ」 対魔導師犯罪第1軍「スペード」
――― the man, his name is … (閑話) ―――
2009.7.18 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2011.12.21(改)