5.2.a girl's talk prev next
back


 これはとある受付嬢たちの雑談である――

 パンゲア大陸 ヴァルハラ帝国東部 グラブ・ダブ・ドリッブ 魔導師協会管轄地区 対魔導師犯罪警察組織「トランプ」本部 受付――

 A子「あー、怖かった……だから嫌いなのよ、スペードのエースって」

 B美「だねー……リシュリューさんもよくあんな人と渡り合っていけるよね……あ! もしかしてああ見えて女は殴らない主義、とかだったり?」

 C恵「なわけないでしょー? 昨日もアヴァロン(ヴァルハラ帝国首都)の娼婦から"殴られた"ってクレーム入ったし」

 A子「今月だけで3件目だよ、風俗関係からのクレーム」

 B美「風俗って……つか、自分の立場わきまえてよって感じ」

 C恵「おまけにさ」




 C恵「今のスペードの将軍キングが来るまで、あの人が将軍キングだったじゃない?」

 A子「あー……あまりに厳しすぎて隊員激減したってんで、協会とか総統ジョーカーから将軍キング下ろされたんでしょ〜? 今のスペードの将軍キングとも確執あるらしいし」

 B美「え!? "あの"スペードの将軍キングと!? それ……よっぽど性格悪いねー。スペードのキングかわいそー」

 C恵「つーか、そんな2人の間でやりくりしてるリシュリューさんが一番かわいそーだよ」

 A子「それから、ハートの将軍キングともめっちゃ仲悪いじゃん!?」




 B美「カグヤお姉様!」

 C恵「何その呼び方!」

 B美「あ……つい……」

 C恵「うらやましい!」

 A子「あの方見てたらホント、男なんていらないって思えちゃうよねー!」

 B美「もぅ……超カッコイイ……!」

 C恵「ほら、治癒魔法学科って、ほとんど女ばっかでしょー? そりゃもう王子様的な存在だったらしいよー?」

 B美「うらやましい! 私もその世代に居たかったわ……」

 A子「ホント、どっかのスペードの副将軍エースとは大違いよねー!」

 「失礼?」
ハートのキング

 低めの女性の声――その主を見、3人の受付嬢だちは飛び上った。




 漆黒の聡明な瞳に、同じく漆黒の腰までで切りそろえられた絡まることを知らない美しいストレートヘア、通った鼻筋に卵のようにつるんとした玉の肌の美女――

 三人の受付嬢は声をそろえた。
 
 ABC「ハハハハハートの将軍キング! おはようございます!」

 ハートのキングはニコリと口の端をあげた。
 
 ハートのキング「おはよう」

 A子「ごようでいらっしゃいますか?」

 ハートのキングはあたりを見回し、再び受付嬢たちに視線を戻した。
 
 ハートのキング「ああ。マスター・ユディウスとマスター・マリアがいらっしゃったと聞いた。今対応できるのは私くらいかと思ったのだが……」

 C恵「あ……もちろんそのつもりでご連絡差し上げようとしていたのですが……」

 B美「あとからスペードの副将軍エースがいらして、そのまま応対を……」

 一瞬、誰にもわからない程度だが、ハートの将軍キングの眉がピクリと動いた。

 ハート「そうか、ならいい。ありがとう」

 そうしてカツカツと去りゆく凛とした背中――

 C恵「身が引き締まるわ……」
 A子「ご足労かけちゃったわね」
 B美「お目にかかれてラッキーだったけど」




 カツカツと、その足音はよどみなくハートのキングの執務室に向いていた。

 しかし、足取りとは裏腹に、ハートの将軍キングの頭は全く別のことに向いていた。

 ――「スペードの副将軍エース」――

 所属している軍は違えど、同じ本部内で働いているはずだが、実に久し振りに聞いたそのフレーズ。

 ここしばらく平凡で煩雑なデスクワークに追われていたその漆黒の眼は、激しい憎しみと、こみ上げる嫌悪感に満ちた、狩人の目へと変わっていた――





――― a girl's talk (閑話) ―――





2009.7.4 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2011.12.14 (改)