「ねえ知ってる? 人間て、ウソがつけるんだよ」
「あ……あんたがう……うそを……」
「おれがついてるかもしれないし〜、クタンがついてるかもしれな〜い」
もう何が"ホンモノ"で、何が"ニセモノ"か、わからない。
これまで、クタンの言うことがすべて"ホンモノ"で、言う通りにすれば"アベコベ"の存在を正すことができていた、……と信じ込んでいた。
だが、もしその"信じ込み"自体が"ニセモノ"だとしたら?
「ソジー! 騙されるな! そいつは"ニセモノ"だ!」
「クタンの言うことがニセモノだよ。今まで誰も教えてくれなかったの?」
「早くソイツを殺せ!」
「さぞかし怖い世界が見えてるんだね、かわいそうに」
「おい! ソジー!」
「そんな世界を正そうなんて、ソジーは責任感が強い子なんだ? 疲れてなぁい?」
「ソジィイイィイ!」
ふと我に返ったように、ソジーの視線がクタンへと戻った。
「昔話したろう!? そいつがロロ・ウーだ! 俺の女を殺したやつだ!」
危ない、危うく騙されるところだった。
そんな傾きかけていたソジーの目の色が元に戻ることよりも、降って湧いた疑問に、はてとロロは首をかしげた。
「クタン、それ何の話だっけ?」
「覚えてすらねえってか! 鬼畜野郎め!」
南パンゲア大陸ナンバーワンの魔薬チーム"黒い三日月"。
ヘッドであるロロの気分によって拠点を転々と、行く先々で地元の権力者を抱き込み、幅を効かせ、誰すら逆らえなくする。
そのメンバーであることは、その権力を振りかざし、好き勝手できるということ。自分達に"何かすれば"、過保護なまでのうちのヘッドが黙っちゃいない。この絶対的後ろ楯は最強だった。
だが、その本質を理解している者は少ない。クタンもまた、その本質を理解できていない一人だった。
ある町が拠点だった時だった。クタンは地元の女と恋仲になった。初めて、この"ぬるま湯"から足を洗いたいと、そう思えた女だった。
だが、クタンにそう思わせる、ということは、かわいいかわいいメンバーの一人に、危害を加えていると、"空色の瞳"には映ったのだった。
ロロはその甘いマスクと甘い言葉で、あっという間に女の心を奪い取り、酷く裏切り、貶め、ついには絶望した女は町の鐘楼から、身を投げた。
身を投げる、という話に、駆けつけたのはクタンだった。ロロは足を運ぶこと以前に、気に止めてすらいなかった。良い気味だと、思っていたのだ。
ロロが、来なかったことに更に絶望した女は、クタンの手が届く寸でのところで、地面へと消えていった。
更に驚きだったのはロロがクタンを魔女から助けたのだと言い張ったことだった。責め立てるクタンを目の前に慈悲の目を向け言い放った。まだ洗脳が解けていない、可哀想なクタン、と。
この個人の中で完結した世界観の、ただの家畜に過ぎないと、クタンはようやく"本質"に気付いた。
「目が覚めたよ。だから俺は"黒い三日月"を抜けたんだ」
そこに、相も変わらず向けられた慈悲の目。
「クタン……まだあの女の呪いにかかったまんまだったんだね」
「テメェ人の話を、」
「だから抜けたんだ。可哀想なクタン。酷い女だ。殺しても殺し足んねぇ……」
「なんだとコラァ!」
「"
瞬間、ロロの体は天井付近にあった。
「んん?」
視線の先の、骸骨のように窪んだ瞳は鋭かった。
「お前は"悪(ニセモノ)"だ」
――― 黒い三日月 ( 絶望宅配6) ―――
2013.3.17 KurimCoroque(栗ムコロッケ)