「ソジーだって!?」
H.P.Dのソジーと言ったら、"ヤツ"に決まっている。エリスの手から石ころが滑り落ちた。
「……"交換屋"……!」
「だれそれ?」
「H.P.Dの犯罪魔導師だよ!」
「なんだ、魔導師か」
あのウランドやトウジロウレベルでなければどれも一緒。ロロの魔導師に対する認識はその程度であった。
「"なんだ"って、あんた、魔導師だよ!?」
「じゃ〜あ〜、そのソジーってひとにぃ、勝ったらぁ…………戻ってきてくれるよね、クタン?」
蒼い瞳の視線の先には、ソジーの到着を待てずに、ギリギリと音をたて、力一杯張られた弓。
「死ねぇ!」
放たれた矢はがしりとロロの手の中におさまった。そしてそれをくるくると回しながら、わざとらしく首をかしげた。
「おかしいな〜」
「何がぁ!」
「クタンがおれにこんなこと、するはずない」
「……テメェ、俺に何したか、まさか覚えてねぇわけがねぇよな……!?」
「H.P.D、つったっけ〜? ここ〜」
「テメェ! 俺の話を、」
「よくもおれのかわいいクタンを"洗脳"しやがって」
全く、話が通じない。この強烈な妄信的"世界観の押し付け"。これに耐えられるか耐えられないかが"黒い三日月"でやっていけるかのポイントだった。クタンも始めこそ恐怖だったが、ざくざくと懐に入ってくる金、メンバーだというだけで周囲が恐れる権威に、満更でもなかったのだ、ある時までは。
「ソジーはまだかぁ!?」
その時だった。
くるくると、矢を回していたロロの手が止まった。次いでボタボタと滴る赤。すぐ後ろに転がる死体の手におさまっていたのは、今の今までロロの手の中で回っていた矢だった。
「呼んだ……? クタン……?」
その声はすぐ後ろから聞こえた。振り向くと、エリスがいたはずの場所に立っていたのは、窪んだ瞳にやつれた頬、薄い頭、まるで骸骨のような不気味な男。
「あんたがソジー?」
「ソジィイーーッ! そいつを殺せ!」
暫く間が空き、まるで亡霊のように生気を感じさせないその男の窪んだ瞳が、静かにロロをとらえた。
「君は……"ニセモノ"だって……クタンが言ってる……"ホンモノ"にしなくっちゃ」
「は? なあに、"ニセモノ"って?」
精霊の流れが、変わった。
「"
「"
一瞬の時の静止。
何か起こったのか、はたまた何も起こっていないのかすら、五感の情報をフルに使っても掴めなかった。
社員達と、その人だかりの最後尾で"いつの間にか入れ替えられていた"エリスは、ただ呆然と次の動きを待つより他がなかった。
先に動いたのはソジーだった。
腹を押さえ、側に横たわる死体に目を落とした。そこに容赦なく、めり込むロロの脚。次いで立てられた中指。

「魔法って"跳ね返せる"んだよ〜」
「"ニセモノ"の分際で!」
言葉を発する度に、その口からは、濁濁と血液が溢れ出した。
「"存在置換"……!」
死体と入れ替わった自らの臓器を元に戻し、痩せ細った瞳はロロへ"剥いた"。
そして魔法を唱えかけたその口をロロのすらりとした手がわし掴んだ。
「ねぇ、さっきからおれのこと"ニセモノ"とか"ホンモノにする"とか言ってっけどさ〜あ〜?」
蒼い瞳は半月に歪んだ。
「そういうあんたはホントに"ホンモノ"なのぉ?」
「え……」
まずい。
クタンの背中に寒気が走った。
昔から、いとも簡単に他人の心根を読み取り、理解し、達者な口で共感を述べ、人を洗脳し、煽動する、そういったことに長けた"化け物"だ。
今もまた、ソジーの対外的だった"妄想"を、内に向けさせようとしている。今までソジー自身が気づかなかった、あるべき疑惑。
"ソジー自身もニセモノではないのか"
答えを求め、クタンに向きかけた顔を無理矢理自分のほうへ向けさせ、ロロは続けた。
「ねえ知ってる? 人間て、ウソがつけるんだよ?」
――― 黒い三日月 ( 絶望宅配5) ―――
2013.3.3 KurimCoroque(栗ムコロッケ)