「ゲコッ! 久しぶりだなあ、シェン!」
ネトネトとした体表、大きく割けた口、ギョロリと飛び出した巨大な目玉、全身緑色のその男の声は聞き覚えの"ない"ものだったが、右目につけている眼帯が、いったい誰であるかを示していた。
シェン「……もしかして、セルダン!?」
特別任務で捜し続けていた"
蛙男はゲコゲコとひきつった鳴き声をあげていた。恐らく、笑っているのだろう。
「まだこん姿ん笑い方がイマイチわからんくてなあ! ゲコッ研究中なんちゃ」
シェン「お前なんでこんなところに?」
世界各地の呪いを求め、放浪の旅を続ける"クラブのキング"セルダン。
彼がもっとも収拾困難としているのが"こじれた呪い"。いつどのように発生するのか予測もつかないレアな呪いであり、聞き付ければ直ぐ様飛び付くほど、彼にとって価値のあるものだった。
そして今回情報を得て立ち寄ったのがこの古代図書館の"こじれた呪い"。
ブック・カースの変異種ということで嬉々として飛び付いたが、何より気になったのは目的としていた呪いではなく呪いをかけた張本人ポシャだった。
シェン「あ、俺も同じ!」
セルダン「術者なら呪いば解くんにそぎゃん時間かからんやろうし、むしろ解くこと自体ばどっか渋っとるようにも見えたんばい……ゲコッ」
シェン「俺には、ポシャ自身がこの本の世界に来たがっているように見えた」
セルダン「やっぱりかい〜……さっき、"なしけんいきなり物語んラストなんや"ち言うとったな〜?」
そうして真っ直ぐと伸ばされた緑色の長い腕。手首に光る黄金の腕輪。それには"見覚えがある"と同時に、この蛙男が本当に"クラブのキング"であることを示していた。
シェン「お前、アーティファクト持ってきたの!?」
セルダン「ゲコッゲコッゲコッ!(←笑っている)ちゃんと許可は貰っとったい。こいつで真ん中あたりんページばビリビリっとな!」
キラキラと光る金色の腕輪に、同じくキラキラと目を輝かせながら、リンリンは訊ねた。
リンリン「なんで真ん中のページだけなの?」
シェン「内側からの解呪じゃ意味がない、ポシャにとっては」
クエスチョンマークを浮かべるリンリンに、お手上げなんだとセルダンは両手を上げて見せた。
セルダン「おれんアーティファクトやったら、どんどんページば破って本ン"胃袋"ばのうならかすっち解呪はしきるばってん、ポシャはそんでよかんかって話ったい。ポシャば納得してから解呪せな、また同じごと"拗れた呪い"ば作り出すやろうっち。そいで困っちゃってな〜」
最早考えは脱出ではなくポシャにどう考えを改めてもらうかだった。姿が変われど、シェンの"記憶"にあるセルダンは変わり無い。なんだか、言葉はおかしいが。
シェン「アハハ! なーんかお前本当変わらねーなあ! 探すの苦労したのにさー」
蛙男は巨大な瞳を真ん丸とさせた。
セルダン「ん? おれば探しよった?」
シェン「そ! 呪い屋までいったんだぜ! そしたら面白いやつがイッパイいてさー!」

まずい、とリンリンは思った。これはいつもの延々雑談モードだと。話の軌道修正をしなければ。
セルダン「へえ? 呪い屋は誰に会った?」
シェン「ザパイって蠱毒屋! そいつから
セルダン「持っとっと? 今」
急に声が低くなった蛙男の視線の先は、シェンの手元をウロウロとしていた。
シェン「え? 持ってるけど」
セルダン「"バロック"が、そいは呪いじゃなかっち」
久々に聞くその名に、シェンの背筋にヒヤリと冷気が走った。
シェン「……あいつが言うならそうなんだ。なんか持ってたらマズそうだな」
にやり、と蛙の口は吊り上った。
セルダン「なら、ここで使おうや!」
シェン「ん?」
その提案の意味を、シェンは分からずにいた。
――― trick beat ( さんまいのよつば3 ) ―――
2012.9.21 KurimCoroque(栗ムコロッケ)