重厚な城壁に囲まれた城下町。伝統を感じさせる古い町並み。整然と並べられた石畳。
落ち着いた雰囲気の旧市街の、薬屋や食材店が立ち並ぶ通りに、"何食わぬ顔"でその店はあった。
ドアベルが、客の来店を知らせる。
すぐさまドタドタと店の奥から廊下を踏み鳴らしカウンターに入った、快活でいかにも土木現場にいそうな屈強な若者。彼はさわやかな満面の笑みで客を迎えた。
「おっ! いらっしゃい! 見ない顔だね、観光?」

赤茶色のツンツン頭に灰色のつり目、顔を斜めに縦断する大きな傷の、その"みない顔"は愛想の良い笑顔でカウンターに腕をかけた。
「ちょっと店長に取り次、」
「ハッハー! わかった、その傷だな?」
客の言いかけた"店長に取り次いでくれ"という発言がまるで無かったように、店員はカウンターの下をゴソゴソと漁りだした。
「え? おーい」
「大丈夫! その傷が呪われてるってことくらい、見りゃわかるよ」
「いや、この傷の件じゃなくてね」
カウンターから顔を出した若者は再び快活な満面の笑みを浮かべた。
「ハッハー! 違ったか! 自分の呪いほっとくって珍しいねー! んじゃあ、わかった、呪いたい誰かさんがいるんだな? その傷の仕返しかっ! よーし!」
そうして今度は木製の脚立に昇り、棚の上を漁りだした。
「いや、そうでもなくてね」
若者はするりと脚立から降りると、首を傾げ客を見つめた。
「ハッハー! 待って! 当てるから」
「アハハ! お前面白いなー! ところで店長に用事があんだけど」
わかった、とこぎみ良く手を叩く音が鳴った。
「ハッハー! お客さん、うちの店長の知り合いだね!?」
「アハハ! 全部ハズレー!」
「やかましいねー、随分とまあ、場に似つかわしくない店員とお客だこと」
「ハッハー! 店長!」
店の奥からのそりと姿を現したのは気だるそうな――
その姿に客はきょとんとした。
「男?」
客の頭の上にいた小さな妖精もきょとんと店主のその姿に釘付けとなった。
「女?」
店長は煙管をふかし、客を見下ろした。
「うっさいわね、見りゃわかんだろ! オカマだよ!」
髭の剃り跡が青い、極太の眉を無理矢理細くしたような、それでいてまったく似合っていない濃すぎる化粧。
はっきり言って、あまり女性らしさを感じさせないその容貌。たまに付き合いでそうした店に行くことはあるものの、そこで接客してくれる人たちとはあまりにもかけ離れていた。
客は店員のモノマネをし、顎を擦った。
「"ハッハー!"、さては呪いでその姿に」
「元からだよ! 失礼な客だね!」
客はあまりのノリのよさに暫く腹を抱えて笑っていた。ようやく落ち着いたかという頃に店長は「落ち着きな」とハーブティーを出した。
「この店に来る客ってのは大概誰かを呪いたいか、呪いを解きたい客だ。あんたらの声がでかすぎて筒抜けだったけど、アタシに用があんだって?」
客は右手を差し出した。
「自己紹介が遅れたね、トランプで"スペードのキング"やってる、リー・シェンって者なんだけど」
これまた期待通りのオーバーなリアクションで店員は驚いてみせた。
「どひーっ! "トランプ"のお偉いさんっ! オーラないねえ!」
店長は握手を返した。
「そうかい、何か用かい? 捜査協力ならお断りだよ」
「アハハ! 違う違う。もう一人、その"オーラがない人"が客にいると思うんだけど」
「顧客の情報は天地がひっくり返ろうが出せないよ」
考え込むようにハーブティーを一口すすると、質問のアプローチが変わった。
「じゃあ、ソイツが知らないような最新の呪いを紹介してよ。目当ての人にハチあわせるかもだし」
店長も店員も、なぜ最新の呪いが目当ての人物に繋がるのか聞くことはなかった。それは"野暮なことに首を突っ込まない"姿勢というより、"すでにその二つのキーワードが結び付いていた"ためであった。そして"スペードのキング"がわざわざ出向いて、これまでほぼ放置していた"あの客"を探しに来た。それはつまり"ただ事ではない"と言うことと理解できた。
煙管が店の奥を指し示した。
「ザパイに連絡とっといで」
元気の良い返事のあと、どたどたと店員は店の奥へと引っ込んで行った。
「今一番新しくてホットな呪いは"
客は屈託の無い笑顔で答えた。
「一日半後で」
店長は笑った。
「あんた、絶対ザパイとソリ合わないわ」
――― trick beat ( シェンと呪い屋 )―――
2012.5.19 KurimCoroque(栗ムコロッケ)