32.shaking reins prev next
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 「ね、ねぇ、ちょっと……考え直さない?」

 突きつけられた事実に脂汗をダラダラと垂らす、金の長髪のエルフの青年――エオルは懇願するようにその黄緑の瞳を相棒に向けた。視線を向けられた銀髪赤目の黒づくめ――フィードはエオルの困った様子など全く気づいていないようだった。
 フィード「何を。"黒い三日月"のリーダーとかいうのに会いに行くだけだろ」
 エオル「だって、その"黒い三日月"のリーダー、トランプに捕まったって話じゃん! 話聞いてた!?」



―――― shaking reins新たなる結託 ――――



 フィードたちの目的は三つ。
 一つ目は老婆エリスの妹を殺した魔薬チーム"黒い三日月"にエリスを会わせること。
 二つ目は"黒い三日月"の権限を使い、どこかの魔薬チームが所有する、よしののアーティファクトのパーツを探し出すこと。
 三つ目はよしのの記憶の手がかりを求め、この港から年に一回ジパング国へ出港する巡礼船に乗り込むこと。

 巡礼船の出航まで時間があるため、まずは順番に"黒い三日月"の件から片付けよう決めた。ところが事態は予想だにしない展開となっていた。


 ――ファンディアス国 ファリアスの港町 

 香る潮風、美しい石畳。早朝と真夜中の隙間。真っ暗に寝静まる路地の裏をくぐり抜け、捕まえた情報屋たちは口々にこう言った。

 「"黒い三日月"のリーダー、ロロ・ウーはトランプに捕まった」
 「"黒い三日月"の残党たちも勢力を失い、次々と警察に捕らえられている」
 「パンゲア大陸南部の裏社会の勢力図が変わる」

 紫色に染め上げた髪をかきあげ、派手な化粧に紫陽花柄のゆったりとしたワンピースの老婆――エリスは舌打ちをしながら顔をしかめた。
 エリス「最悪な事態だね、アタシにもあんたらにも」
 その事態というものを上手くは飲み込めなかったが、黒髪おかっぱ頭の少女――よしのはその真ん丸とした漆黒の瞳を不思議そうにエリスへと向けた。よしのの腕の中で丸まる真ん丸とした黒猫――クリスは退屈そうに欠伸をして寝惚け眼をフィードに向けた。
 クリス「んで、どうすんだ。早くしねぇと」
 エオル「なに」
 円らな瞳をキラキラと輝かせ、クリスはよしのを見上げた。
 クリス「こんな時間まで起きてちゃ、よしのちゃんとエリスちゃんの美容に悪いからねっ」
 エオル「……確かにそうだけど、なんかお前が言うとムカツク」
 クリス「なんだとこの草食系ヒョロ松がっ!」

 フィード「よし、決めた」
 一同がフィードに視線を集めた。

 邪な笑みを浮かべ、フィードはふんぞり返った。
 フィード「そのロロとかいう"黒い三日月"のリーダーを取り返す!」

 一体何を言っているのか、エオルは訳がわからないと呆然としていた。次に口を開いたのはエリスだった。
 エリス「相手はトランプなんだろ? あんたらヘタなマネしちゃお縄になっちまうんじゃないのかい」
 エオルは目を合わせなかった。
 エオル「そ、そうですね……(ヘタなマネしなくてもお縄ですけど……)」
 フィード「安心しろババァ、もれなく返り討ちにしてやる」
 エオル「本当どっからくるわけ、その自信!?」
 エリス「誰がババァだちんちくりんが」
 クリス「てめえエリスちゃんに死んで詫びろ!」
 よしの「あわわわ……皆様喧嘩はおよしになって……」

 心底億劫だと言わんばかりに、フィードは耳をほじった。
 フィード「うっせーな、この"W・B・アライアンス"のボスは誰だと思ってんだ」
 エオル「岩礁へ一直線に沈没させようとしてる船の船長を、誰が船長って呼ぶって言うのさ!」
 フィード「沈没させねえか、乗組員殺さねえのが船長だ。黙って指くわえてても、よしのとババァの目的見過ごすだけだろが」
 エオル「何も考えないで突っ込めば、船は沈没するし、乗組員も死んじゃうでしょ!」
 フィード「そうならねぇで岩礁の上の宝物手に入れるには海図を確かめる必要がある」


        


 街中のとあるホテル。
 石造りの真っ白な外壁に個室の並ぶ、中流家庭でスタンダードなタイプ。その中腹階中央の一室。
 明かりはついているものの、カーテンは閉め切られ、中の様子を伺うことはできない。

 その部屋のはす向かいに立つ街路樹。その枝の上でフィードは目を光らせながらニヤリと笑い、ボキボキと指を鳴らした。
 フィード「情報屋の話じゃ、あの辺らしいな」
 そしてロロ・ウーが捕らえられているとおぼしき部屋に向け手をかざした。それを慌ててエオルの大きな手が引き留めた。エオルは極々小声で叫んだ。
 エオル「何するつもりーーっ!」
 フィード「何って、見りゃわかんだろ、中がどうなってるかわかんねぇから壁壊すんだよ」
 エオル「お願いだからちょっと考えてーーっ!」
 フィード「なに慎重になってんだよビビリめ。調べたらロロ・ウーって賞金レベルS1程度の犯罪者って話じゃねえか。一般の賞金稼ぎが手ぇ出せねえレベルでも、トランプじゃ新人が一人でやらされる程度のヤマだぜ?」
 エオル「なるほど、そんなに強いトランプ隊員はいないだろって話か……って、そういう話じゃなくってね、バレちゃうでしょ、居場所が、トランプに」

 "しょうがねぇなあ"などとぶつくさ言いながら、よしのの腕の中でスヤスヤと気持ち良さそうに眠るクリスの首根っこにフィードの白い手が伸びた。
 クリス「ミャ!?」
 フィード「おい、ちょっと行って様子を見てこい」

 そうして投げつけられたホテルの外壁。
 辛うじて立てた爪で持ちこたえ、なんとか窓の縁までよじ登った。そして一呼吸おくとクリスはフィードに振り向き、牙を向いて毛を逆立てた。
 フィードは追い払うようにシッシッと手を降り欠伸した。クリスは盛大な舌打ちをすると近くのダクトに潜り込んだ。

 そしてダクトに入って疑惑の部屋付近に差し掛かった時だった。
 クリス(……んん?)
 体が、僅かにピリピリする。
 クリス(……法術の結界じゃねぇか)

 円らな瞳をダクトの先に凝らす。
 クリス(あのへんから先が結界の境界か。法力が強力すぎて漏れ出てやがるのか。どれ)
 内なる魔力を押し殺し、完全にただの猫と化したその器を、結界はあれよあれよと受け入れた。

 格子の隙間から光が洩れている。そこから中の様子を伺った。

 少し広めの個室。
 部屋の中央に椅子が置かれ、黒い短髪の男が一人。その男は純白の拘束衣に包まれ、更に札が何重にも貼り付けられた太い縄で椅子に括り付けられていた。
 眠っているのだろうか。頭をもたげ目を瞑ったままピクリとも動かない。

 クリス(いや、起きてんな。視覚殺して周囲の様子窺ってやがる。あの拘束衣越しじゃ無理だろうがな)
 それより気になるのは拘束衣の上に巻かれた縄と札。
 クリス(あれも法力こもってるじゃねーか。なんで? 結界もそうだけど)

 その時だった。

 突然開かれた空色の瞳。それは迷い無く、ダクトの中の暗がりを捕らえた。
 「ごめんね〜おれご飯もってないよ、他所行きな〜?」
 クリス(拘束衣越しに五感が効いてやがる……)
 「……それとも、何か別の用〜?」

 クリスは格子越しに見える範囲で部屋を見渡した。部屋の中には結界の法力がすし詰めに充満している。それはまるで、まばたき一つ検知しそうだった。
 クリス「……お前を逃がそうと目論むやつがいる。魔導師だ。そいつがお前に用事がある。結界の術者には気づかれないようにしたい。この部屋の結界の仕掛けはどこだ」

 空色の瞳はこの時を待っていたかのようにニヤリと笑った。


        
        
        
 フィード「で、なんだって?」

 クリス「結界は部屋の中の法力の体積を見てるんだとよ。奴が居なくなればその分空いた部分ができてすぐに検知される」
 エオル「……なんで法術が絡むのさ」
 クリス「知らねえよ。興味ないから聞いてねぇ」
 フィード「聞けよアホ」
 クリス「"W・B・アライアンス"の活動に支障があんなら聞いてやるよ」
 フィード「ねぇわ」
 クリス「だろ?」

 エオルは何度も首を振った。
 エオル「いやいやいや! ダメだから! 神使教が絡んでるかもしれないってことでしょ! ただでさえ魔法圏とは緊張状態なのに! そんな余計なことしたら」

 その言葉に、フィードの瞳はみるみる輝きだした。マズイとエオルの背中に脂汗が滲んだ。

 フィード「いいな、それ! 久々に"W・B・アライアンス"の活動、」
 エオル「マジで取り返しつかなくなるから! ホントにやばいって! ていうか、ジパングに渡る前に問題起こさないでよ」
 チラリとよしのを見、それもそうかと納得したのかフィードは大人しく腕を組んだ。

 フィード「ロロ・ウーが部屋を出ても、俺様らが侵入しても検知はされる」
 エオル「そうだよ、もう手立てが、」

 白い人差し指がエオルの前にピタリと止まった。

 フィード「だったら堂々と侵入してやろうじゃねえか」
 反論しかけたエオルの目の前で、今度は人差し指はよしのに向いた。よしのはきょとんとフィードを見つめた。

        
        
        
        
 ポタリと音を立て、ダクトから落ちてきたもの。

 ロロの空色の瞳は一瞬それに向けられた後、再び閉じられた。

 まもなくして、ドアが乱暴に開いた。


 ドアから飛び出したのは小豆色の美しいストレートヘアに鶴のように鋭く美しい顔のオリーブ色の瞳の美女――道士"瞼坤道"フー。
 フーは切れ長の瞳をキョロキョロと室内を確認した。
 そうして部屋の壁に張り付く一匹のゴキブリを見つけた。しかも、そのゴキブリは突然変異か真っ白だった。フーは小さく口笛を鳴らした。

 フー「こりゃ縁起がいいお客だな、ビビらせやがって」

 そうして部屋の中央で椅子に縛られピクリとも動かないロロに目を向けた。
 フー「でも、あんたにとっての"縁起がいい"は、あたしにとって"縁起が悪い"だ」
 そうして近くにあったペーパーナイフを手に取りダーツを投げるように構えた。

 ロロ「……止めたげて、可哀想だから」
 フー「おや、お優しいこって」

 空色の瞳は微笑んだ。
 ロロ「フーがね。ゴキブリいる部屋をおれが嫌だと思うって、考えてくれたんだよね? ありがとう。でも、特に気に留めてないからいいよ」

 その優しげな暖かみのある声に懐かしさを感じ、オリーブ色の瞳が少しの間ロロに向けられた。
 フー(ああ……あたしの知る螺羅ロロだ……)

 ロロ「そろそろ寝る」
 フーはドアノブに手をかけ、再度ロロの姿をその瞳に映すと、静かにドアを閉じた。

 再度法力が充満しはじめる、その直前。
 ドア付近にいた白いゴキブリはムクムクと肥大化し、ブルーグレーのストレートヘアに褐色の肌をした、フー瓜二つの姿に変身した。
 少しして法力は部屋に充満した。

 フーと瓜二つの女は静かにロロの背後に回ると縄の結び目に手をかけた。だが、その指先ははたと止まった。
 ロロ「……お利口だね、ほどき方を間違えると上から貼られた起爆札が爆発する。人間の言葉はわかる?」
 女は頷いた。ロロはニヤリと笑った。
 ロロ「じゃあ解き方教えるから言う通りにやって」

 縄が解かれると拘束衣を脱ぎ、靴底に仕込んでいた薄い小瓶の中に入っていた黒い液体を飲み干し、そして久々の解放感を全身に受けるように大きく伸びをした。次に社交辞令だけの空色の瞳を女に向けた。
 ロロ「ありがとー助かった。顔潰したくなる格好だけど。影から姿を借りる能力だと思うけど、合ってる?」
 女は頷いた。
 ロロ「おれが部屋から抜けると、また"あんたの姿の本人"が駆けつけてくる。その時、あんたさ、おれの格好して繋がれててくれる? 時間差を置いて能力解いて適当に脱出してくれればいいから」

 女は無機的に頷いた。ロロは顎を擦った。
 ロロ「ああなるほど、同じ指示を受けてるの。至れり尽くせりだ〜一体どこの誰さんだろ〜な」
 その声色は微塵も関心が感じられなかった。

◆

 音を欠片も逃さぬように両耳に手を当て目を閉じていたよしのは、ふと、その漆黒の瞳を開いた。
 よしの「ホトカゲが成功したようです」


 パチンと指を鳴らし、フィードはニヤリとロロが拘束されている部屋を見つめた。
 フィード「第一段階突破。さてお次は」

 その時だった。

 ガサリと葉の擦れる音を立て、フィードたちの乗る枝がしなった。遅れて、ハラハラと葉が数枚降ってきた。
 「こーんに〜ちわ〜」
 フィードが見上げると、丁度フィードの真横に足を、頭上の枝に手をかけ、空色の瞳の男が見下ろしていた。男は小さな空の小瓶を放り投げ、にこりと微笑んだ。
 「ここじゃあナンだから、場所移動しようかー」


        


◆

 乱暴にこじ開けられた扉。
 玄関まで流れる"赤黒い川"を上流へ辿っていくと、そこには床にうつ伏せるミルクティー色のベリーショートの少女。

 真っ黒のキャソックに仮面のような黒の鼻サポーター、目深に被った制帽、薄汚れた軍手に握られた長ドス――賞金稼ぎ"狂犬"ハイジの、そのキツネのような茶色のつり目は辺りの気配を探るようにキョロキョロあちこちに向けられ、それから少女に向けられた。
 ボロボロの革靴で少女を仰向けにひっくり返すと、その目を細めた。

 少女は虫の息だった。

 「うわっ!」
 玄関から聞こえる少年の悲鳴。ハイジは静かに玄関に向け顔をあげた。
 少しして、まるで断崖を壁づたいに渡るように血の川を避けながら、短髪でくりっとした瞳の快活そうな少年――ハイジを用心棒として雇う少年ハニアが現れた。ハニアは血の川の源流を目にすると、慌てて少女の傍へ膝をついた。
 ハニア「酷いケガ……血が流れすぎだ……どうしよう」

 緊迫した空気に我関せずとハイジは退屈そうに窓から外を眺めていた。
 ハニア「ハイジ! お医者さんに連れていかないと!」
 その呼びかけに、珍しくハニアの関心事に興味を示さないハイジの視線がハニアに向けられると、ハニアは余裕がないんだと語気を強めた。
 ハニア「お金のことは後で考えるっ! それよりも早く!」
 雇い主の依頼に、徐にカーテンを引きちぎり、最低限の止血を施すと、ハイジは少女を肩に担いだ。

◆


        
        
        
 郊外の古ぼけたアパルトマンの一室。
 厚みのあるカーテンを閉め切り、家具一つない木の床に足を投げ出し、ロロは深く深く、深呼吸した。
 ロロ「ふー、やっぱ、おうちは落ち着くなー」

 その後に続いてぞろぞろと、フィード、エオルがロロを囲むように左右に、そして正面によしのとエリスが立ち、フィードの咳払いを合図にエリスは腕を組み、足を交差させ、口を開いた。
 エリス「あんたかい、"黒い三日月"のリーダーのロロ・ウーってのは。随分若いボウヤだねぇ、いくつだい」
 ロロ「23〜」
 エリス「あんた、"紫の人々パープルピープル"って知ってるかい」

 空色の瞳はエリスの目の動き、息遣い、顔の筋肉の動き、全体的な仕草を観察し、そしていつもの薄ら笑いを浮かべた。
 ロロ「わすれたー」

 赤いヒールをガツンと鳴らし、エリスは怒鳴り付けた。
 エリス「惚けんじゃないよ!」

 全身から怒りに満ち溢れるエリスをからかうように、ロロはおどけてみせた。
 ロロ「やだーお婆ちゃんこわあ〜い」
 エリス「このクソガキが!」

 掴みかからんとするエリスを制止したのはタイミング良く割り込んできたダミ声だった。
 フィード「おい、タレ目野郎! 助けてやったのは誰だと思ってんだ」
 空色の瞳は首を傾げ、フィードを見上げた。
 ロロ「しらなーい、あんたらが勝手にやったんでしょ〜? おれ頼んでなーいも〜ん」

 ブチリと二人分、何かが千切れる音が聞こえた気がした。エオルは慌ててフィードとエリスを制止した。
 エオル「落ち着いてっ! 乗っかったら思うつぼだよ!」
 そうして様子を伺うために落とした視線はバチリと空色の瞳とかち合った。

 キラキラと目を輝かせ、エオルを見つめるその様は、まるで欲しかったオモチャを目の前にした子どものそれだった。
 ロロ「おにいさん、エルフ?」
 そのキラキラとした視線に言いようも知れぬ悪寒を感じつつ、エオルはロロの前に膝をついた。
 エオル「そうですよ。ていうか俺、貴方より3つ年下です。それより」
 次の言葉を遮るように、ロロのスラリとした長い人差し指がエオルの鼻先に向けられた。
 ロロ「あんたをちょうだいよ。そうしたらイジワルしない」

 エオルの背中じゅうを、虫酸が駆け巡った。
 エオル「………………はいぃ?」

 フィード「よぅし、やっ、」
 エオル「ちゃだめでしょーー!」
 慌ててフィードの首に腕を回し部屋の角に移動すると、エオルは小声で相談を始めた。
 エオル「いや、なんで初対面の犯罪者に人を売り渡すのさ」
 フィード「売ってねぇ、取引だ」
 エオル「それを売ってるって言うの!」
 至極面倒だとフィードはイライラとした溜め息をついた。
 フィード「やつとまともにお喋りできねぇと話が進まねえ」
 エオル「まず別の方法探そうよ」
 フィード「めんどくさ、いてててて!」
 フィードはこめかみを押さえながら踞った。
 エオルは手を叩きながら再びロロの前に立ち、腰に手を当てた。

 エオル「貴方を助けたのは理由があります」
 ロロ「ねぇ、その前にさ、そいつら表に出してよ、女臭くて鼻が曲がりそうだ」

 エオルは後ろのエリスとよしのを見た。
 エオル「用事があるのはこの二人なんですよ」
 ロロ「あんたが用件聞いて話せばいいだろ」
 エオル「残念だけど、エリスさんのはそういう類いの用件じゃない」
 ロロ「じゃあそこのジパング人と銀髪はいいじゃん」

 エオルは一瞬固まってフィードに目を向けた。驚いたエリスの目がフィードの頭のてっぺんからつま先までじろじろと向けられた。
 エリス「え? フィードあんた女の子なのかい?」
 エオルは苦笑いした。
 エオル「よく間違えられるだけです。ミスター・ロロ、よしのさん一人表に出すのは危険だから」
 ロロ「もー! ああ言えばこう言うー! じゃあもうし〜らないっ」

 バキバキとフィードの白い指が音を上げた。
 フィード「ちょっと、このクソガキに灸を据えてやるか」
 エオル「クソガキって……君からしたら5つ上だよ」

 そしてロロの前に腰を落とし、メンチを切るように睨み付けた。
 フィード「やい、コラてめぇ。たしかに助けてやったのは俺様らの都合だ。ところで、」
 ロロ「ねぇ、女臭いから顔近づけないで、吐き気がする」
 フィードの白い手がロロの胸ぐらを捻り上げた。
 フィード「てんめ〜〜〜……話を聞けよ」
 心底嫌そうに、ロロはその端正な顔を背けた。
 ロロ「こっちのセリフだってば! ちっとも話聞いてくれないじゃん! そのくせそっちの要求ばっかり〜〜きらぁーい!」
 フィード「んだとコラ」

 今にも手が出そうなフィードに、エオルが慌てて割って入った時だった。
 よしの「あの……」
 おずおずと一歩踏み出し、よしのはフィードとエオルを交互に見た。
 よしの「本当にお嫌そうですし……私とフィード様は表へ出ましょう、ですがロロ様、」
 名を呼ばれ、嫌悪感に満ち満ちた空色の瞳と目があった。
 よしの「どうかエリス様だけは置いてください。これだけは、譲れません」
 ロロ「女が俺に命令すんな、消すぞドブス」
 フィードの白い手が更にロロの胸ぐらを締め上げた。
 ロロ「いーたーいーっ! ばかー」

 エオル「ミスター・ロロ! 今のは彼女の要求じゃなくて俺たちの要求だ。飲めなければトランプに突き返す」
 いつもの薄ら笑いを浮かべ、ロロはエオルに視線を向けた。
 ロロ「エルフのおにいさんの言うことなら聞いたげてもいーよー」
 エオルは背中がぞわぞわして仕方なかった。妙な恐怖心で歪む顔に、必死で平静を繕い、よしのとフィードに外へ出るよう促した。


        


 アパルトマンの部屋の外。吹き抜けに沿う螺旋階段に腰掛け、フィードは盛大に怒りのこもった溜め息をついた。
 フィード「……そういや、フツーにフクロにして言う事聞かせりゃ良かったんじゃねーか」
 フクロという意味はわからなかったが言い知れぬ嫌な予感に、よしのは部屋に戻ろうとするフィードの袖を引っ張り、座るよう促した。
 よしの「エオル様とエリス様にお任せしましょう」
 その微笑みとは裏腹にフィードの袖を掴む小さな手は震えていた。
 フィード「なんだよ」
 よしのは困ったように笑った。
 よしの「なんだか、今になって急に怖くなってしまって」

 フィードのゲラゲラという笑い声が吹き抜けを駆け抜けた。
 フィード「あんなガキみてぇなやつのどこにビビんだよ!」
 よしの「ハイジ様のように、瞳の奥に深い闇が広がっているのを感じました」

 ハイジという単語に一瞬フィードはムッとしたが、気を取り直し、ため息をついて壁に寄りかかった。
 フィード「人間だ。まともなヤツからしたらモンスターに見えるけどな」
 よしの「モンスターだなんてそんな……」

 フィード「規範から外れる、他のみんなと違う、違うからわからない、だから怖ぇ。けどその照らし合わせる凡例は、俺様らが勝手に作り上げた世界であって、ヤツらからしたら、俺様らのほうが異世界のモンスターなのかもしれねぇ」

 "相容れない"。ハニアに言われた言葉が記憶の底からじわじわと滲み出した。

 よしの「私っ! 絶対ロロ様と仲良くなりますっ!」
 フィードとクリスは退屈そうに欠伸した。
 フィード「懲りねぇやつ」


 ◆


 葉巻に火を点け、一つ煙を吐くと、エリスはその声色に落ち着きを取り戻した。
 エリス「おい、ガキ、あんたがヤった"紫の人々"ってのは、あんたら"黒い三日月"に何かしたのかい」

 ロロ「どういう意図の質問? "何かした"って言ったら、許してもらえるの?」
 エリス「ちげぇバカ、経緯を知りたいだけだ」
 小馬鹿にするように笑いながら、ロロの空色の瞳はエリスに向けて細められた。
 ロロ「それってさあ、おれが本当のことを言ってるって、証明できる証拠か何かを握った上で事実関係を確認しようとしてるってことじゃあないよね? 無意味じゃね?」
 葉巻の先から灰が落ちた。

 ロロ「あんた何がしたいの? 怒りとか憎しみってやつを気持ちに任せてとにかく張本人にぶつけたいだけだよね? それとも仇を打ちたいの? だったらツベコベ言ってねぇでとっととやればいいんじゃなあい? どちらにせよおれにとっては無駄な時間でしかないんですけどぉ〜」

 葉巻は壁に叩きつけられた。
 エリス「あんた! 大事な人間が他人の手でどうにかなっちまったモンの気持ち、わかんねぇだろ!」
 ロロ「わかぁ〜んなぁ〜い」

 あまりにふざけた態度。こんなクソガキに妹は殺られたのか、そう思うと悔しさとともに涙が込み上げて来た。

 次の瞬間、ロロの胸ぐらを掴み、激しく床に叩きつけたのはエオルだった。
 エオル「いい加減にしろよ!」
 エリスはきょとんとエオルの背中を見つめた。

 エオル「大切な人を失って悲しんでいる人を、お前は馬鹿にしすぎだ!」
 胸ぐらを掴まれたまま、ロロは声をあげて笑った。
 ロロ「アハハハハ! だって、オモシロイんだも〜ん! ていうかぁ、馬鹿なのはそっちでしょ〜?」
 エオル「何だって!?」
 ロロ「そうしたらいなくなっちゃった人は報われるの? 報われるって、どうしてわかるの? そんなのさぁ、ただの自己満じゃ〜ん」
 エオル「そうかもしれない、けど、だけど人には感情ってものがあるんだ! そんなこと言ったって、どうにもできない気持ちってのが、あるんだよ!」
 その声は、外にいたフィードとよしのにも聞こえるほどだった。

 ロロの胸ぐらを掴むエオルの手は震えていた。
 エオル「どうしてエリスさんが、お前の言う怒りや憎しみってやつを抱かなきゃならなくなった!? おまえのせいだろ! 自分のしでかしたこと、もっとよく考えろよ!」
 ロロ「意味わかんなぁ〜い、何でおれがそのババアのために考えなきゃいけねぇの? あんた言ってることおかしいんじゃない?」


 根本が、決定的に違う。故に、全くかみ合わない。


 怒れる二人の様を心底楽しそうに、ロロは笑いながら見つめていた。

 ――愛だの恋だのとかいう利己的なうわべだけのものとは違う。俺だけに向けられたホンモノの感情、気持ち、思い。俺だけのものだ。もっと向けろよ! 早く殺しにかかれよ! てめぇらのそれ全部叩き潰して粉々に砕いてやるから、絶望した顔を拝ませてくれよ!

 エリス「ヘラヘラしてんじゃないよ!」
 エリスは近くにあった燭台を手に取り、思いきり振りかざした。エオルの太い腕が慌ててエリスを引き留めた。
 エオル「エリスさん! 落ち着いて」
 エリス「ふざけんな! ブッ殺してやる! 離せよ!」

 不穏な大声に、外にいたフィードとよしのが慌ててドアをあけた。
 フィード「なんだよ! 早速交渉決裂か!?」
 エオル「まだそこまで行ってない!」
 フィード「拗らせてんじゃねぇよ! ったく」

 よしのは荒れ狂うエリスを強く抱き締めた。
 よしの「どうか……どうか……!」
 エリス「クッッッッソォォォァ!」
 力一杯投げた燭台は軽々とロロの手の内に収まった。ロロは鼻で笑った。
 ロロ「ショッボ! つまんねー」

 エリス「うあああ……!」
 エリスは泣き崩れた。同時に、部屋にはロロの笑い声も響きわたった。

 「おい」


        


 呼び掛けに振り返ったロロの頬に、白い拳がめり込んだ。

 激しい衝突音が部屋に響き、壁に叩きつけられたロロを、血走った赤い瞳が見下ろした。
 フィード「女泣かしてんじゃねえよ……!」

 ニヤリと薄ら笑いを浮かべ、口の端をペロリと舐めると、ロロはそのまま胡座をかいた。
 ロロ「で、交渉ってなに?」

 その様はすでに、エリスの嘆きも、エオルの怒りも、フィードの叱責すらも、まるで興味が失われていた。

 フィード「話はまだ終わってねぇよ」
 ロロ「めんどくせぇ女だな、死にたいの?」
 フィード「さっきから! オンナオンナうるせぇな! 思春期のガキかっ! 自意識カジョーく〜ん」
 ロロ「それ、モテないコに言うカラカイじゃない? おれソレ関係ねぇや〜」
 バキバキと白い指が鳴らされた。
 フィード「コロス」

 クリス「ミイラ取りがミイラって知ってるか? バカ共め」

 よしのの肩から降りた真ん丸とした黒猫にロロは微笑んだ。
 ロロ「わぁー猫さんだ〜かわいい〜しかもお喋りできるの? お利口さんだ〜」
 クリスは全身の毛という毛を逆立てた。
 クリス「ヤローに褒められても一つも嬉しくねぇんだよ!」
 空色の瞳は真っ直ぐと黒猫を捉えた。いつもの薄ら笑いのまま、ロロは言った。
 ロロ「ついでに悪魔臭ぇ」

 フィードとエオルは驚いたようにロロを見た。クリスは目を細めた。
 クリス(やはりな……拘束衣脱いだら法力がバケモノじゃねぇか。もし俺が"故郷思い"ならここでブチ殺してたが)

 一呼吸置き、場を落ち着かせると、クリスはゆっくりと口を開いた。
 クリス「俺たちの要求を飲めば、俺たちはお前がこのクソエルフをどうしようが止めねぇ」
 エオル「はい?」
 ロロ「なにそれ〜! もっとちゃんとハッキリ"くれる"って言ってよ〜そうやってなんやかんやウヤムヤにするつもりでしょー?」
 クリス「何言ってる、あとはお前次第だっていってるんだ。どこに文句がある」
 ロロはため息をついた。

 ロロ「じゃあそのお願いってなぁ〜に〜? それによるかも〜」
 クリス「あるアーティファクトのパーツを探している。何処かの魔薬業者が持っていると耳にした。お前のコネで取り戻してほしい。このエルフとはソイツで物々交換といこうじゃないか」
 エオル「いこうじゃないか、じゃないでしょ!」

 ロロの空色の瞳がエオルを見つめた。
 エオル(み、見られてるッ……見られてるーーーー!)
 ロロ(……"黒い三日月パラダイス"再建の、ついでではあるな。再建祝いにこのエルフを"プランター"にいれるってのもオツだ。ヒマつぶしには悪くはねぇ)

 空色の瞳は視線を黒猫に戻した。
 ロロ「そのアーティファクトのパーツって」
 よしの「こ、こちらですっ!」

 よしのの足元からフワリと風が巻き起こり、淡い光とともにユラリと蜃気楼のように5つの宝珠が姿を現した。
 よしのがロロに目を向けると、ロロの嫌悪に満ちた顔が飛び込んだ。
 ロロ「……アーティファクトって、その女の?」
 よしの「え……」

 長い足を投げ出し、ロロはソッポを向いた。
 ロロ「じゃあヤダ。この話はナシ。交渉決裂〜」

 フィード「お前さっきエルフ出せば話に乗るっつったじゃねぇかよ」
 ロロ「そこまで言って無ぇ。エルフのおにいさんくれたら話くらいは聞いてやるって言ったんだよ。バカだねー? 脳ミソの精霊死滅でもしてんの? とっとと土に還ったほうがいいんじゃねえ?」
 バキバキと指を鳴らすフィードを慌ててエオルが制止した。

 脱け殻のように項垂れるエリス、拒絶に呆然と固まるよしの、荒れ狂うフィードに、すでにやる気のないエオル。たった一人の男にパーティーはあっという間にボロボロにされてしまった。

 クリス(それというのも……)

 クリスのモチモチとした尻尾がフィードの頬にビタンと子気味の良い音をたてた。
 フィード「痛ぇ!」

 クリス「てめぇがシッカリしてねぇからだろうが! 何が船長だ! 何がボスだ! 上に立ってるつもりになって、フタ開けてみりゃあフッワフワのガッタガタじゃねぇか! ごっこ遊びでホンモノのワルに関わるな! てめぇのせいでエリスちゃんとよしのちゃんがカワイソウだろ!」

 静まり返る部屋の中、ロロの冷やかす口笛だけが響いた。エオルは今にも殴りかからん勢いだったフィードから力が抜けていくことを感じた。そして、フィードの瞳に真っ直ぐな光が宿るのを見た。

 クリス「むぎゃっ!」
 クリスの上をわざと踏み、ツカツカとロロの前までくるとドカリと腰を落とした。ロロの空色の瞳を真っ直ぐと見据えたまま、フィードは口を開いた。
 フィード「エオルはやらん。交渉もまだ決裂じゃねぇ」
 ロロ「……はぁ?」


        


 フィード「エリス!」
 初めて自分の名前を呼んだその声に、エリスは思わず背筋が伸びた。
 フィード「お前の妹を殺ったやつはこういうやつ、それだけだ。それ以上でも以下でも無ぇ。どうしたいか、表で一服してから考えろ。……よしの!」
 息をつまらせながら、よしのは小さく「はい」と答えた。
 フィード「エリスに付き添え。表にはお前ら二人でやる。大丈夫だな?」
 問いかけに頷くと、よしのはエリスの肩を支え、玄関を出た。

 再び静まり返った部屋で、対峙するフィードとロロ。その後ろで見守るエオル。暫くの間沈黙が流れた。
 その中で最初に口を開いたのはフィードだった。
 
 線が太すぎた!!!

 フィード「てめぇに話が二個あるっつったな」
 ロロ「もうその二個とも終わったじゃん。てかアンタがリーダーなの? お先真っ暗なパーティーだね〜どうでもいいけど」
 フィード「一つはエリスってテメーが泣かせた女の敵討ち、もう一つはアーティファクトのパーツ探し」
 ロロ「うん、だからもう終わったでしょ〜? しつこいなあ〜」
 フィード「自己紹介がまだだったな」
 ロロ「興味ないから聞いてないんだけど……」

 フィード「"W・B・アライアンス"」

 空色の瞳は一瞬揺らぎ、これまで無関心だとさ迷っていた視線はまっすぐとフィードに向けられた。
 ロロ(新鋭の犯罪魔導師集団……こんなこじんまりした遠足みたいな団体サマなの?)
 そして、あからさまに呆れた様子で、ため息をついた。
 ロロ「そうだったんだー、案外ショボくてがっかりだー」

 フィード「こう見えて、これまで何度もトランプを退けている」
 ロロ「どうせ下っぱでしょー?」
 フィード「中にはグランドセブンのトウジロウ・イチマツもいた」
 ギルティン戦で共闘した黒髪坊主の大男が頭をよぎった。
 ロロ「見え見えのハッタリなんですけど……」
 フィード「ハッタリじゃねえ」

 空色の瞳が床に転がる真ん丸とした黒猫を捉えた。
 ロロ「ふーん、その悪魔と契約でもしてるのか……見たところかなり高位の悪魔に見える」
 「これが?」という呆れたエオルの視線がクリスを突き刺した。

 ロロ「でもさ、」
 空色の瞳はフィードの紅い瞳に視線を戻した。
 ロロ「死んでないじゃん、トウジロウ・イチマツ」

 フィード「"W・B・アライアンス"の目的は殺しじゃねぇ」
 エオルの喉がゴクリと鳴った。これまで頑なに話さなかった結成理由を、言うのか、ここで。


 フィード「目的は"スマートに悪名を轟かすこと"だ」


 エオル「はい?」
 ロロの前に素っ頓狂な声を上げたエオルに、フィードはやれやれとため息をついた。
 フィード「なんだよ、文句あっか」
 エオル「意味わかんない! 結局意味わかんない!」
 フィード「まだ内緒だ。そのうちわかる」
 エオル「ちょっとねぇ!」

 そのやりとりの間、ロロはじっとクリスを見つめていた。クリスはただ気位高く胸を張って座り、ロロに視線を合わせなかった。
 ロロ(なるほどなー。銀髪と、この悪魔がメインで他はオマケな連中か)
 ふと、クリスが視線を合わせた。
 クリス「それはハズレだ、小僧」

 空色の瞳は見開かれ、ある一言が頭を過った。
 "だからこそ、この世に完璧なんて、ありえない"
 ウランドから放たれたこの言葉はロロの頭の中で"予想外であること"は"案外楽しいこと"であると結び付いていた。

 ギャアギャアといつもの口喧嘩を繰り広げていたフィードとエオルの間に、投じられたロロの一言。
 ロロ「ねぇねぇ、なんかキナ臭くて面白そーだね〜」
 このキナ臭さのどこが面白いのか、エオルはロロの言葉の意味が全く理解出来なかった。

 ロロ「せっかく"黒い三日月"作り直すし〜新しいこと始めよっかなあ〜」
 フィード「おお、それはいいことだ」
 エオル「ちっとも良くない! 何一つちっとも良くない! 魔薬組織作り直すっつってんのよコノ人!」

 ロロ「黒猫、お名前は?」
 クリス「クリスと呼ばせている」
 ロロ「クリス? かわい〜名前〜」
 フィードとエオルの間に「あれ?」という空気が流れた。ロロの興味の対象は、エルフでもなく、犯罪魔導師集団でもなく、そのボスでもなく、どうやこの黒猫に移ったようだった。

 そしてロロの長い手が高々と挙げられた。

 ロロ「は〜い! なんか面白そうだから手ェ貸すことにしたげる〜」
 エオル「へっ!?」
 フィード「てんめ〜! なんだその上から目線! お前はこれから"W・B・アライアンス"の傘下なんだぞ!」
 ロロ「何いってんの、"W・B・アライアンス"が"黒い三日月"の下でしょ〜?」
 フィード「ほざくなクソガキ!」
 ロロ「てめぇのがガキだろが」
 呆れ果てたクリスが横やりを入れた。
 クリス「どっちでもいいじゃねぇか」
 フィード&ロロ「よく無ェ!」
 全く同じタイミングでまったく同じ返答。似た者同士だ、とエオルもまた呆れ返った。

 エオル「まあ、"W・B・アライアンス"って、"魔導師クソくらえ同盟"の略でしょ、いいじゃん、同盟で」
 ロロ「えー頭イイ〜! 聞こえのいい単語であやふやな感じにするパターンだね〜」
 エオル「ちょっ、やめてよ、そういう言い方」
 フィード「そーだそーだー白黒決めろー」
 ほんの今までロロと口げんかしていたダミ声の思わぬ発言にエオルは意味が分からないと声のトーンが上がった。
 エオル「なんで君そっちについてんの!?」

 クリス「ああもう、面倒臭えな!」

 三人は一斉にクリスに視線を集めた。
 クリス「別に今白黒決めなくてもいいだろ。どっちが強え組織作るか、この先で決めようじゃねえか」
 ロロ「えーっ! 競争? 燃える〜」
 フィード「フン、なんか腹立つけどまあいい」
 そして改めてロロ・ウーへと向き直った。

 フィード「エリスがお前をどうしたいかはエリスに決めさせる。ただし、アーティファクトのパーツ探しはキッチリやってもらう」
 ロロ「死ねと手伝え、真逆のオーダー受けてるんだけど」
 フィード「エリスが極論を出すかはわかんねぇだろ。もし出したとしてもパーツ探しを優先させるようエリスには話をつける」
 ロロ「あんたら、さっきから宙ぶらりんでグレーであやふやなことばっかし。じゃあ同盟はババアが敵討ちの答えとやらを出すまでの期限つきね。襲われたら殺すし」

 フィード「ついでに、エリス以外の俺様らはこれからジパングに行ってくる」
 ロロの爆笑が部屋に響き渡った。
 ロロ「クレイジー! 魔導師なのにジパング人連れてるし、ジパングに行くとか言うし」

 ――このおれに敵討ちだとほざくババアに、ジパング乗り込むとかフイてるアホ魔導師。
   おもしれえ! いい暇つぶしになりそうだ――

 ロロ「……ところであんたら、どうやって巡礼船乗り込むの? 今のまんまじゃ乗れねぇだろ」
 フィードとエオルは互いに顔を見合わせ、そして丸くした目をロロに向けた。
 フィード&エオル「……今、なんて?」


        


 ――ほぼ同時刻。ホテルの一室。

 ベッドの上で胡座をかき、静かに目を閉じて結界の様子を伺っていたフーは、ふと気配を感じ、顔を上げた。
 目の前には青緑に黒の縁取りのガウンのような巻き衣装に、同じデザインの鍔のない帽子。胸元まである長い髭を蓄えた、小さな老人。
 「瞼坤道」

 フー「なんだ、"ライ"のジジイか。わざわざこんな外国までなんだよ」

 「"儡乾道"だと言っておろうが! "転乾道"の護送の補助として派遣された。やつは何処だ」

 補助まで寄越されるとは、そんなに自分は信用されていないのか。落胆とイラつきで大きなため息を一つつくと、この爺をロロを閉じ込めていた部屋に通した。

 だが、部屋はもぬけの殻だった。

 フー「あれ……!?」

 爺の目が鋭くフーを睨み付けた。
 「国家の超重要機密任務だぞ。この任務失敗の責任は重い、覚悟しておけ? 瞼坤道」


        
        
        
KT … カイセツ(K)とツッコミ(T)
      またの名を
      カユイ(K)ところにテ(T)がとどく


      
       
p.1    ■船長が沈没が
    いつごろ書いていたらバレそうですね。
       

p.4    ■白いゴキブリ。褐色のフー
    よしののアーティファクト"ホトカゲ"の能力は影を借りて本人とは色の反転した姿に変身すること。
    
    ■黒い小瓶
    墨汁がはいっているのです。緊急用。

       
p.5    ■ハイジとハニア
    賞金首であるロロを捕えに来ました。
    ハイジがこの世でもっとも興味がないのはD・O・A(生死問わず)ではない賞金首(=ラプリィみたいなの)です。
    ハイジにとっては存在する価値すらありません。


p.9    ■船長
    結局事態を収拾したのはクリス?
    ガキンチョで、クリスからみたら全然頼りないフィードですが、それでもクリスはフィードを立てようとします。


       
       
       2012.5.12
        KurimCoroque(栗ムコロッケ)