「貴方が犯人ね」
「え? 俺? なんの?」
立ち寄った寂れ宿場町のはずれ。
シェンに剣を向けるのは晩飯でたまたま相席になった女。
シェンの問いかけが気に障ったのか、突然席を立ち、謝ろうと追いかけたシェンに対し「犯人か」と言ってきた。どうやら何か勘違いがあるようだ。
「ごめん、なんのことかわかんないけど」
「え? 違う?」
シェンと女は互いにきょとんと目を合わせた。
再びパブに戻り、席につくと女はマントを脱ぎ頭を下げた。白い肌に短い栗色の髪がよく映える、青緑の瞳に口元のほくろが印象的な美女だった。
「ごめんなさい、ちょっと神経質になっていたみたい」
酒を一口入れ、シェンは気にしてないよと微笑んだ。
「その剣を誰かに狙われているとか、そういう感じ?」
女は目を見開いた。また何か疑われたのかとシェンは慌てて補足した。
「いや、俺が剣の話題振ったとたん、いなくなっちゃったからさ!」
二人分の飲食代をテーブルに置き、女はゆっくりと立ち上がった。

「これはお詫びよ。私にはこれ以上関わらないで」
灰色の瞳が不思議そうに女を見上げた。
「なんで?」
女は冷めきった瞳で背を向け、去り際にぼそりと答えた。
「死ぬから、みんな」
シェンの頭に、"呪い"という単語がよぎった。もしそうであるならば、クラブのキングを誘き寄せる格好のエサになると考えた。
「俺、魔導師だよ」
"魔導師"という単語に、なぜこの様なところにいるのか信じられないといった様子で女は振り返った。
シェンは勝ち気な笑みを見せ、テーブルに肘をつくと体を乗り出した。
「相談に乗れるかも」
緊張の糸が切れたように、女は力無く椅子についた。そして頬を伝う一筋の涙。
「……お願い、助けて、魔導師様……」
シェンはハンカチなどがないかポケットを漁った。その慌てふためいた様子にリンリンの呆れた声がかかった。
「さっき、部屋に置いてった上着の中だよっ」
そしてカウンターまで飛びナプキンをとってくると乱暴に女に渡した。
「あ、ありがとう……」
「早く拭いて! シェンがアナタを泣かせたと思われるじゃない」
シェンは苦笑した。
「事実じゃないから別にいいけど……取りあえず自己紹介まだだよね、俺シェン。そっちのちっこい妖精はリンリン」
涙を拭ったナプキンを顔に押し当て息を整えると、女は真っ赤な目鼻を上げた。
「私はサラ」
そして件のアンティークの剣を心底大事そうに抱き締めた。
「これは、武器商をしていた父の形見なんです」
「お父さんのか。それで?」
「この剣は父が一番大切にしていた、長年探し回ってようやく手に入れた一番最後のコレクションなんです。だけど、この剣がやってきてまもなく、身の回りで怪事件が起こるようになりました」
「怪事件?」
「父がこの剣を見せた友人や家族が次々と斬殺されるようになりました。父の友人たちは私が通っていた剣術道場の高位有段者たちばかりなので、そう簡単にやられるような人たちでもないはずなんです。そして、」
女の瞳に涙が溜まった。今にも泣き出しそうなのを堪えんと唇は震えていた。
「……父も……殺害されました。……私が駆けつけたとき、かろうじで息のあった父の最期の言葉はこうでした」
――『……剣を……』――
シェンは顎を擦った。
「その先の言葉はありませんでしたが、私にはわかりました。ようやく手に入れた父の一番自慢のコレクションです。手に入れた直後から起こりだした怪事件。何者かが剣を狙っているのは確かなんです! 命にかえても、この剣は私が守ると、誓い、みんなから犯人を遠ざけるため、故郷を出ました。ですが……」
シェンの灰色の瞳はただ剣を捉えていた。あまりサラの話を聞いているようには見えなかった。サラは続けた。
「行く先々で関わった人たちが殺されていきました。なぜ犯人は周りの人たちばかり狙って、私から直接剣を奪おうとしないのか……私は父の仇をうつ日を夢にまで見ているのに、私は闘うに値しないのか……」
「"みえないおにごっこ"」
「え?」
シェンは不思議そうに自分を見つめるサラの顔をまじまじと見つめた。
「あのさサラ、自分が有名人なの、知ってる?」
「有名人……私が? 何を言っているの?」
シェンはテーブルの端の金をサラに戻すと、懐からクシャクシャの紙幣を二人分の代金置き、立ち上がった。
「犯人はこの中にいるよ」
サラは店内を見回した。ガヤガヤと活気溢れるそこはいつもと代わり無さそうな店の日常だった。
「……見たことある人はいないわ」
「そりゃそうさ、"みえないおにごっこ"だからね。……たぶんだけど、犯人はお前からは絶対に見えないところにいる」
そうして息を吸うとシェンの溌剌とした真っ直ぐな声が店内に響き渡った。
「おい、犯人! 俺はサラから剣を譲り受けることになった! 明日だ! 嫌なら俺を殺しに来い!」
店内はキョトンと静まり返った。
シェンはニカリと屈託無く笑うとサラにホテルの名刺を差し出した。
「もし明日までの間に何かあったらここに。明日の朝またここで会おう。9時くらいでいい?」
「大丈夫なの!? そんな狙われるようなことして……あなたに何かあったら……」
カラカラと笑い、サラに向け手を振った。
「大丈夫だよ、魔導師だからね」
店を後にすると、直ぐ様リンリンがシェンの頭の上に止まった。
「……あの人、"見たことある"よ」
「まあ、"本物"か"偽物"かは今晩わかるよ。今日はちょっと夜更かしな」
――― trick beat ( みえないおにごっこ2 )―――
2012.4.21 KurimCoroque(栗ムコロッケ)