「のろいや?」
「そ、呪い屋」
金髪碧眼の妖精の少女リンリンの問いかけに、赤茶色のツンツン頭に顔を斜めに縦断する大きな傷のある青年シェンは、これから遠足に出かける子どものように、はしゃぎ気味の声で答えた。
大悪魔ノッシュナイド擁するW・B・アライランス討伐のため、"
最後の一人、放浪の旅に出たまま行方不明の同僚である"クラブのキング"セルダンの手がかりを求め、シェンが次に目指したのは"呪い屋"というなんとも黒いネーミングの場所だった。
「他人を呪うための道具を売ったり、呪いの代行を行ったりする店だよ」
「こ、こわいところだね」
「アハハ!」
"クラブのキング"セルダンの放浪の目的は、世界中の呪いを集めること。理由は自身にかけられた呪いを解く方法が"すべての呪いを受けること"であるため。解呪ができなければ、大切な人々の記憶から自分は永久に戻ることはなくなる。
「今日はこの辺で宿でもとるか!」
陽も傾き、たどり着いたのは辺境の宿場町。
交通の要所より外れているため、人で溢れかえっているわけでもなく、地元周辺民が要所の宿場町の混雑を避けるためにひっそりと作られた落ち着いた雰囲気の、悪く言えば少々寂れた町だった。
「道、ちょっと外れてるんじゃない?」
「ま、寝食できればどこも一緒だろ」
「……綺麗なとこにしてよね」
都会の清潔感ある施設の良さを知ってしまっているリンリンは、ただただ気が重かった。
周辺の農業が休耕期なのか、宿の確保は容易だった。夕飯にと店主から勧められた店に入ると、小さな店内には仕事上がりや暇をもて余した町民、宿場の利用客たちで、見事にごった返していた。その店は町で唯一のパブだった。
ランプの明かりが染める夕焼け色の店内に、笑い声や楽器の演奏が絶え間なく、自然と人々の声も大きくなる。
一際盛り上がる地元民とおぼしき団体の中に混ざろうとするシェンを、二人きりで食事したいリンリンが必死で引き留め、ようやく通された角の席。リンリンの要望は叶わず、あいにくの相席だった。マントを目深にかぶり、何人たりとも寄せ付けないオーラを放つ、この場に似つかわしくない陰気な客。リンリンはこの席に通した店員を恨んだ。
そんなリンリンの思いに全く気付いていない様子で、こんなときもシェンの空気の読めなさは炸裂した。
「こんちわ! 飲んでる? 何食べた? 美味かったものがあったら教えてよ」
「……私に構わないで」
意外なことに、女の声だった。

リンリンは歯をギリギリと鳴らし睨み付けて「シェンに近づくな」と女を威嚇した。(近づいているのはシェンの方だが。)
シェンはマントに被さる女の頭を見つめ、ニコリと微笑むと店員を呼んだ。
「飲み物と食い物、この人とおんなじやつで!」
「えーっ! ちょっとシェン!」
「さっきお婆ちゃんから貰ったクッキーで腹膨れてるだろ? 俺のつまむくらいでいいかと思ったけど」
シェンと半分こ、という言葉がリンリンの頭から不満を追い出しあっという間に占拠した。
「うん♡」
すっかり機嫌のよくなったリンリンをうれしそうに見つめた後、再び相席の女に視線を向けると、今度は壁際に凝った装飾の施されたアンティークの剣が立て掛けられていることに気がついた。
「結構年代物の剣だね、使えるの?」
女は慌てて剣をマントの中にしまうと、まだ食事の途中にも関わらず、急いた様子で店を出ていった。
「あれーーっ!? 俺なんか怒らせた!?」
シェンは慌てて女を追った。
シェンが追ってくるのに気がつくと、女は逃げるように駆け出した。
「待って! 何か気に障ったんなら謝るから」
人気のない町外れまで来ると、女はクルリと向きを変え、シェンに向かいアンティークの剣を引き抜いた。
アンティークにしては、手入れの行き届いた殆ど作りたてに近い剣だった。刃越しに、女の鋭い殺気がシェンを突き刺した。
女は口を開いた。
「あなたが犯人ね」
シェンは辺りを見回し最後に女に視線を戻すと自分のことかと自身を指差した。
「え? 俺? 何の?」
――― trick beat ( みえないおにごっこ1 )―――
2012.4.13 KurimCoroque(栗ムコロッケ)