12.2.snitch prev next
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 「まいど!」

 海鳥の鳴く声がこだまする、香る潮風、真っ白く反射する石畳。表通りから一歩入った路地裏。

 1瓶のラムネ菓子と札束を交換し、少年は意気揚揚とその場を後にした。

 曲がり角に差し掛かったところで、ふと少年の視界は遮られた。

 目の前には陰気な2人の男。

 「よう、景気はどうだい?」



 ――港町ファリアス 郊外の岩山 魔薬チーム"黒い三日月"アジト

 アジトの廊下をのそのそと歩くロロ。

 ロロが通ると、ガヤガヤと廊下で騒いでいた取り巻きたちはピタリと静まり、壁に張り付く。

 ロロが去り、再びわいわい騒ぎだしたが、またもロロが通りすぎ、静かに壁に張り付く。
 さきほどからずっとその繰り返し。ロロは今、珍しくアジト内をウロウロとしていた。それも、かなり落ち着きなく。

 「あんなに動くウーさん初めて見た」

 「バカ、道士なんだ、格闘技の達人のはずだぜ! ……たぶん」

 「機敏なウーさんとか……ぷっ」

 「おい、また来たぞ! 壁に寄れ!」

 ところが、今度はロロは通り過ぎるどころか、むしろ向かってくる。

 「え?」

 「やべ! 聞かれた!?」

 ロロ「おい」

 殺される、と取り巻きたちは壁際に張り付いたまま凍りついた。




 ロロ「一人居ねぇ」

 「……へ? 一人?」

 ロロ「この間入った新入り」

 取り巻きたちは「ああ」と顔を見合わせた。

 「そういやここ数日見てないッスね」

 「どっかでくたばったか?」

 「ハハハ」

 ロロ「死体でもなんでもいい、探してこい」

 「え゛……」

 ロロのその一言で、黒い三日月のすべてのメンバーは少年探しに駆り出されることになった。

 (あのガキ〜!)

 (見つけたらタダじゃおかねぇ!)




 ――ロロの部屋

 紅茶のサーブをしていた取り巻きの一人が訊ねた。

 「何だってあんなガキ……」

 ロロはソファで足を組み、相変わらずソワソワと落ち着きがない。

 「ウーさん、タバコ!」

 取り巻きは慌ててロロの前にタバコを差し出し、マッチに火をつけた。

 ソファに身をうずめ、ロロはタバコをふかした。

 ロロ「ガキじゃねえ、仲間だ。黙っておれのパラダイスからいなくなるのは許さねぇ」

 また始まった、と取り巻きはため息をついた。

 (出たよ……本っ当"パラダイスの住人"には事情無視して、しつこいくらい固執するんだから……)

 「ウーさん!」

 別の取り巻きが慌てた様子で駆け込んできた。




 ソファから身を乗り出し、火のついたままのタバコも放り投げ、ロロは食い入るように取り巻きを見つめた。

 ロロ「見つけたか」

 「ハイ! "紅夕暮"……! げほっ! み、水……」

 ロロ「くれないゆうぐれ?」

 サーブしていた紅茶をもらいながら、取り巻きは報告を続けた。

 「ハイ! 新鋭の魔薬チームらしく……あのガキ、そこの一員だったんスよ! マジでスパイだったんス!」

 その一言にすくりとロロは立ち上がった。

 「ウーさん」

 額に青筋立てながら長い指がゴキゴキと鳴らされた。

 ロロ「おれのもん盗るなんざ、気の知れねぇバカ共だ」

 (……あれ……?)

 ロロ「取り返す」

!?

 取り巻きたちは顔を見合わせた。

 (人の話聞いてましたーーーー!?)





―――  黒い三日月(snitch) ―――





2010.3.13 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.11.12(改)