12.1.no reason prev next
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 「はーなーせーよっ!」

 「わっ! こら、暴れるな!」


 ――黒い三日月アジト

 いつものように部屋でソファに身をうずめ、いつものようにボーっと中空を見つめて半日過ごしていたロロはようやくその異変に気がついた。

 ロロ「……なんか騒がしいな……」

 横で紅茶のサーブをしていた取り巻きは、ローテーブルにポットを置いた。

 「見てきましょうか」

 うるさいのは確かだが、さして興味はなかった。ロロはぼんやりと中空を見つめたまま答えた。

 ロロ「いいや、ヤバけりゃ誰かしら来るだろ」

 その後もしばらく甲高い声と取り巻き達の野太い声の言い争いがアジト内に響き続きた。

 サーブの取り巻きはしびれを切らし、ちらちらとロロに視線を送り始めた。

 ところが当の本人は何食わぬ顔でたまに冷めた紅茶をすすっては、ぼーっとするを繰り返していた。

 いつまでたっても、騒ぎは一向に収まる気配がない。

 「ウーさん……出た方がよいかと……」

 かわいい部下の頼みなら、とロロは紅茶を一口すすり、のそのそと気怠そうに立ち上がった。




 騒ぎはアジトの出入り口近くだった。

 大勢の取り巻きが何かを取り囲んでいる。

 ロロ「どうした」

腰パンの書き方がわからん

 その一声で取り巻きたちはすぐさま押し合いへしあい道を開けた。

 開けられた道の先には、首根っこを取り巻きの一人に掴まれふてくされている7つか8つほどの少年。

 ロロの姿を見つけるなり、少年は「あ」と声を上げた。

 「ウーさん……すみません、このガキが……」

 少年は取り巻きを振り払い、ロロの前で手をついた。

 「コイツ……!」

 少年「ぼくを黒い三日月に入れてください!」




 すぐさま少年は取り巻きに床へ押さえつけられた。

 「ウーさん、すみません、すぐに追いだし……」

 ロロ「いいよ、どーぞ」

 取り巻きたちは一瞬時が止まった。

 少年「やった!」

 飛び跳ねガッツポーズをし、少年は全身で喜びを表現した。

 「何考えてるんスか! ウーさん!」

 ロロ「え? 今? 今日のバーはどこにしようか……」

 「ちーがーいーまーすっ! 何こんなガキ入れようとしてんですか!」




 問の意味が分からないとロロは小首をかしげた。

 ロロ「入れようとしてんじゃねぇ、入れたんだ、今」

 さらに別の取り巻きが食ってかかった。

 「だから、何でこんなガキなんか!」

 もう騒ぎに興味がないとロロは踵を返した。

 ロロ「別に断る理由がねぇ。俺たちの仕事はガキでもできる仕事だろ?」

 取り巻きの一人がポツリと言った。

 「……断る理由があればいいんスね?」

 ロロは背を向けたまま無言で手をヒラヒラと振り部屋に戻った。




 少年は仕事ができた。

 言われたことは雑用だろうがきちんとこなした。

 なにより魔薬ドラッグの売買は手慣れたものだった。よそで構成員でもやっていたのだろう。

 少年は少なからず売上に貢献していた。

 ある日、取り巻きの一人がロロに進言した。

 「あいつ……魔薬のやりとりが妙に手慣れてますよ……他のチームのスパイかも……」

 ロロは静かにうすら笑いを浮かべた。

 ロロ「"かも"は"理由"になんねぇよ」





―――  黒い三日月(no reason) ―――





2010.3.6 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.11.7(改)