11.4.楽 prev next
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 楽園パラダイス

 自分にとって、何がそれに当たるのか、裏社会に身を落してから日々自分に問いかける。

 つまらない言いがかりをつけては何かとちょっかいをかけてくるチンピラども。

 道術と体術を極めた道士であるロロにとっては、蟻とかわらない、どいつもこいつも全くの雑魚であった。

 ロロ「"蟻"潰しほど退屈なもんはねぇなあ」

 祖国を出て以来、日々退屈を極めていた。


 見えない方向性、同じことの繰り返しの毎日。

 ロロ(おれは一体何をしたいんだ?)

 つかみどころのない焦燥感と苦痛極まりない退屈、それらは徐々に目的意識とやる気を殺いでいった。




 そんなある日だった。

 いつものように"蟻"どもの巣潰しをしていたとき、ロロは初めて"魔薬ドラッグ"を目にした。

 ロロ(こんなラムネ菓子に大金かけるなんざ、気がしれねぇなぁ)

 そのように思いつつも、何の気なしに、まだ息の合った"蟻"の一匹の口に、そのラムネ菓子を無理やりねじ込んだ。

 それからしばらくの間、その"蟻"は何かのタガが外れたようにロロに魔薬を求めた。

 やがて、その"蟻"の周囲も、家族も、"蟻"自身も、破滅し、それでも"蟻"は魔薬を求め続け、死んだ。

 その間、ロロはどこから湧いて出てくるのかわからない満足感に満たされた。

 ロロ「……こりゃあいいや」

 楽園建設の方向性が決まった。




 それからはすべてが順調だった。

 桃花源時代に熱中していた"ある研究"も完成し、力づくで魔薬ドラッグの入手ルートを開拓した。

 そんな力のあるロロの元には、次々に人が集まった。

 魔薬自体を欲しがる者や、金のためにロロに近づく者、目的はそれぞれであったが。

 だが、誰も自分を否定しない、それどころか自分のやる悪事ことなす悪事ことすべてを肯定してくれた(ように感じた)。

 仲間たちの作る空間は、ロロにとって文字通り楽園となった。

 魔薬に溺れるヤツらを眺めて満足感を得、自分を否定しない仲間たちに囲まれ、幸福感を得た。

 ロロ(おれが次になすべきことは一つだな)







 "この楽園を守ること"

 それがおれのすべてだ。








 ■■解説■■ ロロの「どこからわいてくるのかわからない満足感」について

 ロロという一人の人間について、真面目な話をします。
 もし読者の方に中高生の方がいらっしゃったら、ちょっと早い話かもしれません。
 けど、人として大事なことなので、解説書いちゃいます。
 (興味無かったらこのページは読まなくていいっす。物語には関係ないし)


 ある説によると、人間の根底にあるごくごく基本的な欲求として、
 ・食欲
 ・睡眠欲
 ・性欲
 の3つがあるといわれています。

 これは基本的に肯定されるべき欲求と思います。

 このうちの一つ、性欲。

 ロロの場合は、同性愛者であるが、環境がそれを認めてくれなかったのに加えて、自分自身も環境につられてそれを否定してしまっています。

 人として、大事なことなのに。

 人間の根底の欲求を抑圧しているわけですから、いつかのマリア先生も言ってましたが、人間、どこかにひずみが出てくるもんです。

 ではロロにとってどこにひずみが生じたか。
 結論だけいうと、抑圧された性欲が支配願望に変質してしまったんですね。

 一方的に否定されて追い出された
 ↓
 何一つ自分の思い通りにならなかった
 ↓
 自分の欲求が満たされないストレス
 ↓
 ロロ自身がストレスに気づいていないため(自分は同性愛者じゃない+非難されるいわれはない)ストレスを解消する術がない
 ↓(ここで歪み)
 他人を自分の思い通りにしたい
 ↓
 支配願望

 といったイメージです。

 その支配願望を満たしてくれたのが、魔薬ドラッグだったんですね。

 自分がしたかったことを魔薬がやってくれるんです。
 男たちを支配してくれるんです。

 それがロロの満足感の正体です。

 歪んでますね。

 当然です。

 人間が持って然るべき欲求が他人に否定され、自分で否定し、抑え込み、満たされないどころか表に出てすらこないのですから。

 ただ、心のゆがみの方向性は人それぞれだと思います。

 ロロはたまたまこういう方向にはけ口を見出してしまった。
 ただそれだけです。


 ついでに言うと、ロロは帽子が好きという設定ですが、これは同性愛に対する羞恥心を無意識に隠すために帽子をかぶっているんです。
 心の防衛反応です。

 なので、白桜姫にあの言葉をかけられるまでは帽子を目深にかぶって、自分の心を守ろうとしていました。

 あの言葉をかけられ、白桜姫に対して心を守らなくていいことがわかった、それが脱帽につながるわけです。

 ロロ自身はこれも気づいていません。まったくの無意識です。
 なんか突然帽子をかぶると安心するなー、帽子が好きになったなーとか、なんかそんな程度しか意識してないです。


 なんかちょっと真面目に解説してしまいましたが、これが現在のロロ・ウーという人間のすべてです。

 ロロの"ある研究"についてはまた後ほど明らかにします(本編になるかも?)。
 ロロに睡眠薬が効かなかったのもそこで明らかになります。


 ロロに限らずこの話の登場人物たちの性格はもともとどういう性格で、どういう環境に置かれ、どう今のものになったかを考えた上で登場人物としている人が多いです。
 中にはロロのようにジェンダー・アイデンティティに何かしらの問題を抱える人も何人か出てきます。
 なかなか触れにくい話ですが、この話の裏コンセプトとして、私たちの世界の社会や個人の問題をファンタジーの世界に落としこんだら……?
 というものがあります。
 なので、ジェンダーな問題も問題にすべき大事な一つという位置づけです。
 もし「ファンタジーなのに!!」って気分を害されたらすみません。。

 あ、なお作者は別に同性愛を否定しているわけではありません(娯楽として扱う気もさらさらありません)。
 桃花源の風潮がそうなだけなので、あしからず。

 長くなりましたが、こんな物語に直接関係ない駄文をここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ろろ
 オンマウスで突然わらいます(笑)新しい悪事でも思いついたんでしょうか?
 ちなみにロロの腕と首元からちょろっと出ているのは刺青ですが、ただの刺青ではないです。
 経文です。後ほど明らかにしますが、"ある研究"の秘密がここにあります。

 全身経文……耳なし芳一のようですな。




―――  黒い三日月(楽) ―――





2010.2.20 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.10.29(改)