ヒラヒラ、ヒラヒラと、白い折鶴は前後左右にフラつきながら、風に揺られ、やがてぱたりと地面に落ちた。
「ん?」
黒い三日月のアジト前。
入り口前の清掃を行っていた取り巻きは、この岩山にあるには明らかに不自然なそれに、気がついた。
「ウーさん、ちょっといいッスか?」
ソファに体をうずめ、ぼーっと中空を見つめていたロロは、そのまま口だけ開いた。
ロロ「……どうした」
「アジトの前でこんなもの見つけまして……」

取り巻きはチリトリに乗せていてた白い折鶴をロロの前に差し出した。
ロロは身を乗り出し、折鶴を見つめ、目を細めた。
ロロ「……心当たりがある。おれのだ、ありがとう」
「やっぱり! ちゃんとゴミは片づけてくださいよねー!」
そう言うと、掃除中だった取り巻きは再び掃除に戻っていった。
ロロはひょいと折鶴を持ち上げ、紙を広げた。
紙にはこう記してあった。
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転乾道 烏螺羅(てんけんどう ロロ・ウー)
「転」を返却いただきたく
至急戻られたし
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ロロ「……んー」
道術の元は術の母体となる漢字1字の言霊である。
これは道士一人に1字ずつ与えられ、重複はない。
ロロの場合は「転」の字がそれであった。
※すべての術に「転」がつく。9.3話、9.5話参照。
同じ字を複数に与えることは許されないため、道士は殉職や引退の際には"字"を管理する処へ返却しなければならない義務がある。
ロロはニヤリと笑った。
ロロ(ふざけんな、おれは殉職も引退もしてねぇ。ただ単に"お前ら"がおれを"道士として認めてねぇ"ってだけだろ。いちいち付き合ってらんねえよ)
これまでにもこのような内容の手紙は幾度となく送られてきたが、アジトに張るロロの結界を破るものなど一つもなかった。
だが、今回は違った。
ロロ(……おれの結界を破るほどの術者……リー・シェンか?)
しばらくの間、傍から見ると思いつめたように紙を見つめていたが、どうにも考えても無駄だと飽きが来てしまったらしい。
ロロ(まあいっか)
手紙を灰皿に入れると、マッチに火をつけ、紙を燃やした。
「……紙を燃やしたな、
ピリッと一瞬、肌に電気のようなものが走った。
ロロは突然立ち上がった。
すぐ横で、紅茶のサーブをしていた取り巻きは驚いた。
「び……びっくりさせないでくださいよ!」
ロロ「お前ら……今すぐ全員町に遊びに行ってきな」
あまりに突拍子もない命令に、取り巻きはきょとんとした。
「……はぁ? 全員!?」
ロロ「全員」
「……は、はい……わかりました……」
ロロにいつもの笑みがない。
取り巻きはそのいつもと違った様子にビビリ、慌てて部屋を後にした。
ロロ(ヤロー結界に入りやがった。よくもまあ
ロロはずいぶん久しぶりに自分の中にふつふつとこみ上げる怒りを感じていた。
それはどこか嫌悪感にも似た感情だった。
――― 黒い三日月(accel.) ―――
2010.1.16 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.8.15(改)