4.1.the lost promise prev next
back


「お前がこれからゆく"世界"は、お前を人として見てくれることはない。そういう場所だ。だが、ゆくゆく私の跡を継ぐには、それを知らなければならない。私の息子であるなら、たとえどんな仕打ちを受けようと、負けてはならぬぞ」

ヤクトミ「はい! 母上」



「なぁ」
白いふわふわの髪の少年は、しつこく自分の周辺をキープしている隣の銀髪に問いかけた。
「あん?」
問いかけれ、銀髪は適当そうな返事をした。

10月――様々な年齢、種族の新入生たちが、ここ、魔導師養成学校アカデミーのキャンパスを初々しい空気で包んでいた。

すれ違えば、必ず新入生だとわかる。なぜなら、獣人の教師がいるとまだ知らない新入生たちは、決まって白い髪の少年の尾を驚いたように見つめるからだ。

―― なぜ、ここに獣人がいるのかと ――

そして、決まってすぐ目を逸らす。

―― 関わらないようにと ――

白髪「お前、俺のこと怖かねーのかよ」



銀髪「怖ぇよ。なんでかわかんねーけど。みんなそうだから、俺様もそうだ」

白髪「……じゃあ来んなよ」
銀髪「俺様も次の講義コッチなんだよ」

キャンパスの石畳。冬の準備のために葉の色を赤や茶に染めた木々。空は青く、小鳥は歌う。

白髪「……鳥はいいな」
白髪はぽつりとつぶやいた。
銀髪「なんで?」
白髪「"鳥だ"ってみんなに思われてるから」
銀髪「……んーー」

銀髪は白髪の首根っこをふんづかみ、石畳の上をはずれ、木立の中に分け入った。

白髪「なんだよ!?」

紅葉の木々生い茂る赤や茶のトンネルを抜けると、小さな小屋がひっそりと建っていた。

銀髪「見ろ、昨日見つけた。上級生の飼育小屋だ」

おちびども

中にはフサフサとした毛だるまのような小さな鳥が、わらわらと餌をほおばっていた。

銀髪「こいつも鳥だ。でも飛べねえ、食用だ」

白髪はよくわからないが胃の裏あたりがむかむかとした。

白髪「だから?」

銀髪「鳥っつっても、いろんな鳥がいるんだよ。自由に空飛んでるやつとか、食べられるだけのやつとか。それも全部"鳥"」

白髪「……だから?」

銀髪「……あれ? ちょっと違うか?」

銀髪は腕を組んで一瞬考え、再び白髪に向いた。


銀髪「なんか、最初"お前とおんなじやつ"見たとき、あえて違いを認め合わないと"本当の理解"ってできないんだってオヤジが言ってた。でもそれってすっごく難しくって、世界中や自分の中にも"テキ"がいっぱいなんだって。だから、俺様、お前と仲良くしようと思う」

白髪「意味分かんねーよ。難しくってテキがいっぱいなのに、俺と仲良くすんのか?」

銀髪は不敵な笑みを浮かべた。

銀髪「だって、そのほうが、面白いじゃん。面白いから、ここでの友達第1号はお前に決まり!」

白髪「他のやつにいじめられっぞ」

銀髪はフフフと含み笑いをした。

銀髪「テキは多けりゃ多いほど燃える!」

白髪「ばかなやつ」

白髪はうつむいた。銀髪は「そういえば」と手を叩いた。

銀髪「お前、名前なんだっけ?」

ヤクトミ「……ヤクトミ……」

フィード「俺様はシャンドラだ」


フィード「俺様の目標は対魔導師犯罪警察組織トランプ将軍キングになることだ!」

ヤクトミ「俺と同じじゃねーかっ! マネすんなよ」

フィード「なんだとー! じゃあ、お互いライバルでもあるわけだな」


    「どっちが先になれるか、競争しようぜ!」



フィード、ヤクトミ 10歳の秋――




――― the lost promise (閑話) ―――





2009.5.16 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2011.10.5(改)