38.8.絶望宅配8 prev next
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 「なに? 何の騒ぎなの」
 「落ち着いてください、すぐに職員がおさめますので」

 クリスに噛まれた怪我の手当てをし、応接間でこんこんと母親からクレームを浴びていたライエルは、廊下の足音に助かったと顔を上げた。
 ドアが開くとそこには蒼い瞳の見慣れぬ男。職員ではないようだった。
 そのスラッとしたシルエットと端整な顔立ちに、母親は思わずつり上がった目尻を下げた。




 「ライエルくんって人いますか〜?」
 「は、はい、わたしですが……貴方は?」
 「喋る黒猫の〜……"飼い主"っでぇ〜す☆」
 このユルすぎる口調、明らかに、嘘臭い。

 「ねーねー、喋る黒猫返してほしいんですけど〜」
 ライエルは鼻で笑った。シラを切るつもりだった。ところが押し退けるようにして前に出たのは母親だった。




 「これから購入するところでしたの。プレゼントいたしますわ」
 「奥さーーーーんっ!」

 母親の右手の甲に口づけるとロロはニコリと笑ってみせた。
 「ありがとう。すごく嬉しい」

 その後の母親のはしゃぎっぷりは目も当てられないほどだった。このとき、その様子を背後から傍観しながら、エリスは思った。
 ("ネコ"の皮被ったなんたらとはこいつのことだな……)
 
 ※このあと母親に見えないところでロロが唾を吐いて口を何度も拭っていたのは言うまでもない。
 




 ◆


 "人妻"に、しかも野郎ロロへの貢ぎ物とされたことに、クリスは延々とメソメソし続けていた。対してロロは挑発的に微笑みを浮かべていた。
 「女って超チョロい」
 「地獄に落ちろ」
 「かえれ! 土に!」




 ゲラゲラと腹を抱えて笑い、ふと、いつもの薄ら笑いの低く垂れ込めたテンションに戻ると、"可愛がるように"クリスの頭を撫でた。
 「そんなクリスくんに朗〜報〜! 今おれたちが目指しているのはある女のひとのところだよ〜?」
 途端に顔をあげ、尻尾をパタパタとふるクリスを尻目に、エリスは怪訝そうに眉を寄せた。

 「……南パンゲアの魔薬チームで女っつったら……"アイツ"じゃないだろね?」
 薄ら笑いを浮かべたまま、ロロは歩を進めた。
 「ついてからのおたのしみ」





―――  黒い三日月 ( 絶望宅配8) ―――






2013.3.23 KurimCoroque(栗ムコロッケ)