この広い空の下。立つのは同じなのに。
抜けるような真っ青に、雲が流れる。
少し強めの風が心地よい午後、校舎のとんがり屋根の上。
風になびく白い髪、同じ色をしたフサフサの尻尾。
握りしめられた、一枚の紙。
「おや、ヤっ君、奇遇だね」
背後から降ってきた聞き慣れた声に、ヤクトミは慌てて紙をクシャクシャに丸めて直立すると、愛想良く金色の瞳を向けた。
「ユディウス先生、こんにちわ。休講ですか?」
燃えるような赤い髪が風になびく。穏やかな黄緑色の瞳はいつものように優しげに微笑むとヤクトミに座るように促した。
失礼しますと一礼し、ヤクトミは先程と同じ位置に腰かけた。それを確認してから、よっこらせと、隣に腰掛け、ユディウスは深呼吸をした。
「演習場に野生のモンスターが入り込んじゃってね、急遽。今トランプのヒマな子たちに駆除を任せてる」
「そスか」
黄緑色の瞳がヤクトミの手元に丸められた紙を映した。
「ヤっくんは休憩中? ペーパーテストで悪い点数でも取ったんだ?」
僅かに、紙を丸める手に力がこもった。
「ペーパーテストがあるような科目はもう残ってないっス。……これ、見てました」
決意したように丸めた紙をゆっくりと広げ、ユディウスに渡した。
粗末な安い紙に刷られた手配書。そこに写る写真。
一枚はベリーショートの少女、そしてもう一枚は、ユディウスにとって大変胸の痛むものだった。
「あの子のことかい?」
「……まあ、そうスね……」
「こっちの子は? 猫の獣人ということは、もしかして、協会で保護するって話があった子?」
ベリーショートの髪の少女の写真。傷ついたように一瞥し、膝を抱えた。
「……全然、そう言う訳じゃないって、頭ではわかってるんスけど、」
「彼らが墜ちたことと君は関係ない」
ヤクトミはユディウスを見上げた。温かな手のひらが真っ白の髪を撫でた。
「君のせいじゃないし、君にできることはなかったから今こうしている。もしもあの時なんて、探す時間の無駄だよ」
「……お言葉ありがとうございます。……すみません、でも、焦って、居ても立ってもいられなくて、勉強にも集中できなくて……」
ユディウスは暫くヤクトミの様子を観察していたが、急に思い立ったように手を叩いた。
「ヤっ君さ、もしかしてヒマなんじゃない?」

突然、何を言い出すのかと、ヤクトミの目は真ん丸となった。
「いや、やることはそれなりに……」
「それなりでしょ? 余計なことを考えちゃうヒマはあるんだよ」
「はあ……まあ、ヒマというか、余裕はあると思いますね」
「インターンシップ行ってみなよ、トランプ志望だよね。ガルフィン先生に頼んであげるからさ」
ヤクトミの金色の瞳はますます真ん丸となった。
「な、なぜです? ……すみませんけど、到底そんな前向きな気分には、」
ユディウスはいつもの暖かな微笑みを向けた。
「一度、あらゆることを後ろにおいて、打ち込んでみなさい。大事なことから離れてみると、案外新しい視点に立てるかもよ?」
――― into a ship ―――
2012.6.30 KurimCoroque(栗ムコロッケ)