大きくなりゃあ、同じ道を歩むだろう。
ごく自然に、当然だと、そう思ってた。
古くより桃花源国の伝統演劇を守る宗家の生まれ。
旅一座として国中を旅し、家を空けてばかりの父や兄たちの背中を見て育った。
たまに帰宅した折に持ち帰られた、見たこともない綺麗な装飾の土産品や想像もつかないような現地の話が、何より楽しみだった。
だが、一つだけ不満があった。
それらは自分で見たいし、自分で選んだものを買いたい。
旅一座に入りたい理由は、実に不純だった。
だが、何一つ疑うことなく、本気だった。
やがて、真ん中の兄が道士を志した。
家として初の道士輩出。大変名誉なことだった。
親戚中が、兄と父母、祖父母を祝福した。
真ん中の兄が抜けた穴を、補うのは自分だと、思っていた。
だが、それは違った。
伝統演劇は、女は継げない。舞台にすら上がることは許されなかった。
代わりに与えられたのは許嫁。早く多くの子孫を残す役目。
兄たちの練習で目にしたものを、まだ短い手足でよたよたと、将来の希望に夢を見ながら、影で練習していた自分が、馬鹿らしく思えた。
それを境に、地元の不良たちとつるみ始めた。
時を同じくして、道士の学校で兄と仲良くなった
螺羅は、家族も気付かなかった心の空白をすぐに読み取った。
弟妹と併せて面倒見てくれる優しくて良く気がつくお兄ちゃん。
一度その口を開けば欲しかった言葉ばかり。心の隙間に暖かく流れ込み、掬い取ってくれた。
傷付きふて腐れた、頑なになっていた心は溶かされ、いつしか人に優しく出来るようになった。
感謝の気持ちと同時に芽生えた憧憬。
螺羅のようになりたいと、道士を志した。
だが学校に通うには年齢的に遅く、相手方との婚約の手前、家族親戚中が猛反対した。
兄は同じく遅い年齢での入学だった。これもまた兄のようにはいかないんだと、どこか下を向く自分があった。
背水の陣での、入学だった。
だが、身に備わった法力の強さに一目置かれ、期待は自己を肯定し、肯定は自信となった。
その時、一番最初に、目をかけてくれたのが、儡爺だった。
少しして、螺羅は許嫁と結婚した。
再びふて腐れ、男遊びが激しくなった。学校中の女子から嫌われた。この頃酒と煙草を覚えた。
夢も希望も、絶たれた気がした。
「やっぱりあいつはダメだ」
歩けば落胆が聞こえた。
必死に自分を信用しようとする儡爺や許嫁や家族でさえもが疎ましかった。
暫くして、螺羅が離縁。
同時にやる気の出る自分に単純さを覚えつつ、結婚する気の全くなかった許嫁やその他の男関係を解消。身辺を整理したことで散漫だった気力がまとまり、修行に打ち込むことができた。
天性のセンスで武術の成績、道術の成績ともに首席。ただしメンタルで要監察という条件付きで卒業。人の約半分の年数での飛び級卒業だった。
天才・螺羅の再来と歌われ、鼻が高かった。
だが、なぜ"再来"なのか。
再び、ぐれてしまうのではないかという懸念から、周囲は黙っていた。
螺羅が、道士協会を離反したことを。
道士協会を破門され、家から勘当までされ、なにより離縁は妻からだったという事実。
憧れの人にそこまでの仕打ちをする彼らに直ぐ様噛みついた。
理由なんて、いくら言い聞かせられようが、一つも関係なんて無かった。
可哀想な螺羅。
彼を支えられるのは自分しかいないと思った。
周囲を軽蔑し、その中で目的を達成させようとした時、冷静になる自分がいた。
周囲はそれを、乗り越え成長しメンタル面も問題なくなったと捉えたようだった。
三年。道士の仕事をこなし一人前として認められ信頼を得るのに費やした。
ようやく、夢にまで見た、下された指令。

"烏螺羅抹殺"
あの、優しい螺羅を、やっと迎えにいける。さみしい思いをさせずに済む。やっと、やっと会える。
会えたらとっとと任務なんか放棄して、螺羅と一緒に生きるんだ。
そうしてあたしは、いつもの指令となんらかわりなく、螺羅の元へと旅に出た。
――― About Who ―――
2012.6.23 KurimCoroque(栗ムコロッケ)