28.2. Misattribution of arousal 2 prev next
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 燃えるような赤い空。

 地鳴りのように鳴り響く男たちの讃美歌。

 草原の中の、白い丸石の敷き詰められた砂利道。



 草原の一本道を抜け、たどり着いたのは綺麗な円形に草原が開け、これまで通ってきた砂利道と同じ砂利が敷き詰められた場所。その中央には――

 フー「だ、断頭台?」

 無人の断頭台の刃がゆっくりと上がった。そこに現れたのは裸の女性。ただし、その顔は目や鼻といった顔の一切のパーツが無く、誰なのかは全く判別がつかなかった。女はそのまま刑に処された。
 フー「なんなんだ?」
 再び刃はゆっくりと上がり、またものっぺらぼうの裸の女性が現れ、刑に処される。その延々繰り返しだった。
 もうウンザリだ、とフーは不味いものを口にしたように顔をしかめ、舌を出した。
 フー「……どういう欲求だよ……女は使い捨てだとでも思ってんのかなあ?」
 先へ進もうと断頭台を横切ると、断頭台の後ろには同じようなのっぺらぼうの裸体の女性が、先が見えないほど遠くまで断頭台に列をなしている。
 ウランド「刑に処すということは、女性は何らか罰を与えるべきものと考えているんじゃないですか」
 フー「見たまんまじゃねぇか、つーか女の裸だからって目ぇ逸らすな、手がかり見落とすかもしんねぇだろが」
 ウランド「ジロジロ見たら失礼じゃないですか……」
 フー「だーから、本物の女じゃねぇって」
 ウランド何度か頷いたが相変わらず断頭台とは真逆の方を向いていた。
 フーはウランドの首に飛び付き体勢を崩すと、そのままコブラツイストをかけた。
 ウランド「いたたたたた!」
 フー「いーいーかーげーんーにーしーろー」

 ※ウランドはヨトルヤから服を来てないマネキンすら見ることを禁止されている。




 ――間――

 女の列は断頭台の広場の先に同じように続く砂利の一本道のずっと先まで続いていた。
 女の列を隣に丸石の小道を暫くの間進み、やがて列が途切れ、そのまま更に先に進むと今度は茶色い水の池があり、中央には噴水がこんこんと茶色い水を上げ続けている。そうして今度は顔のない男たちが噴水を囲み口を開け、噴水の水をガバガバと飲み込んでいる。
 ウランド「池の水は紅茶ですね、好きなんでしょうか」

 隣から反応がない。不思議に思って見下ろすと、フーは顔を覆い、しゃがみこんでいた。

 ウランド「……フーさん?」




 どこか体調でも悪いのかとウランドもしゃがみ、様子を見ようとしたが、フーは小さく首を横に振った。
 フー「……見んな……つか、今あたし、服は着てる?」
 フーの発言の意味がわからなかったが、たしかに、フーの身にまとっていた鮮やかな緑の民族衣装はどういうわけか薄くなり、その下の白い肌がうっすらと見える。
 ウランド「着てます……けど…………透けてきてます……」

 フーは顔を上げた。
 ギャーーーッ!!!
 その顔は、目や鼻が無かった。かろうじで残っている口も"消えかけている"。
 フー「クソ、"順応"が始まりやがった」

 ウランド「……もしかして、あの列に並ばなければと思ってます?」
 かろうじで残っているフー口の端がニヤリとつり上がった。その隣を脂汗が伝った。
 フー「わかってきたじゃん」

 ウランド「……脱出法を探すためにこの世界について考えることは"順応"を早めることになるのか……」
 それはつまり、脱出法を考えるということは精神体の崩壊につながる、ということだった。

 ウランド「……少し休憩して別のことを考えましょう」




 道を外れ、目の無いフーの手を引き草むらへと誘導し、砂利道に背を向けて二人は腰かけた。

 フー「この状況で別のことなんざ考えられるかよ」
 ウランド(確かに。故郷の思い出話なんかしても結局ロロ・ウーの話に繋がりそうだし……もっと身近なこと……本気で別の考えに替わること……えーと)
 そうして視線を向けようにもフーの服はかなり透けてきており、ウランドにとって目のやりどころが皆無だった。

 時間がない中慌てて考えた挙句、あくまでこのまま順応してほしくないという思いからだったが、ウランドはつい思ったままのことを口から滑らせた。

 ウランド「…………そのまま本当に服が無くなったら、襲っちゃいますよ」

 フー「おまっ、バカ!?」
 勢いよく向けられたフーの顔は元の通りだった。

 二人はきょとんと顔を見合わせた。
 ウランド(あー……なるほど、この方法だ……完全に俺悪者だけど……)

 ウランドはニコリと笑うと立ち上がり、フーに手を差し出した。
 ウランド「だから、次は気をつけてくださいね」

 フーは目と鼻の感触を確かめ、ブスッとしたまま、ウランドの手をとると、ウランドに引き寄せられるのではなく、逆にウランドを引き寄せた。




 膝をついたウランドの首根っこを乱暴に掴むと顔を近づけ一瞬微笑み、そのまま優しく頬に口付けた。そしてゆっくりと離しライトブラウンのクセっ毛をそっと撫で、ニヤリといたずらっぽく笑うと、立ち上がった。
 フー「ごほうびだよ。さあ、先へ進もう」

 手で顔を扇ぎながら足取り軽いフーの小さな背中をウランドはしばらくの間呆然と見つめていた。
 ウランド「……フーさん、貴女道士のクセに軽率ですよ……」

 貴女が仰ったんじゃないですか、精神体の機能は"順応"だと。





―――  A. ( Misattribution of arousal 2)―――






2012.1.27 KurimCoroque(栗ムコロッケ)