
桃花源国
元はヴァルハラ帝国領土拡大により国を追われた移民を先祖にもつ。
現在では優秀な道士を多く輩出する名家として、神使教を国教とする桃花源国において確固たる地位を築き上げた一族である。
ゆえに、そのブランド、プライドはすさまじい。
十年前 ロロ・ウー 十三歳。
道士となるべく寺院で修業を重ねること八年。名家「烏家」の子息として修行開始前からの英才教育に加え、かねてより持ち合わせていた天賦の才も相まって、彼は当初から他より圧倒的に抜きんでていた。
ロロ自身、家の期待に応えられていることに満足していた。
家も寺院も、周囲は彼を天才として絶賛した。
……一部、修行として寝食を共にしていた同輩たちを除いては。
はじめは、当然同輩たちも家や寺院と見方は同じだった。
しかし、年月を重ね、思春期に入り、ロロの"ある傾向"が同輩の目におかしく映り出す。
修行の間、乾玄学(男の修行僧の学校)、坤玄学(女の修行僧の学校)とで修行僧間の男女の関わりは一切断絶された。
しかし、年に一度の帰省の際や、行事の折に目に触れる女性の姿に少年たちは色めき立った。
ただひとり、ロロ以外は。
ロロは全く女に興味を持てなかった。
元々彼の気質として、物に執着がなく、マイペースだが、家の期待に応え得る努力を惜しまない真面目さもあった。
反面、同輩とともにイタヅラをしたり騒いだりも同じだけ楽しんだ。いわゆる世渡りがうまく大変器用な少年だった。
女の修行僧たちも、優秀でユーモアもあるロロに興味を持つ者が多かった。
女の興味が集中するロロへの嫉妬か、女よりも自分たちといる方が楽しそうなロロに、同輩たちは影で後ろ指を差した。
桃花源国の神使教ではご法度とされる、ある"禁句"とともに。
ロロは物にあまり執着しない性格だったため、その頃はさして気にしていなかった。
ただ義務として家の期待に応えるということさえこなしていればよいだろうと考えていた。
そのまま驚異的なスピードで修業を終え、"転乾道(「転」の字を与えられた男の道士の意)"として仕事に就くことになる。
だが、ここでこの"後ろ指"に無頓着だったことが、彼の転落に拍車をかけることとなった。
――― 黒い三日月(転) ―――
2010.2.6 KurimCoroque(栗ムコロッケ)
2012.10.17(改)