24.2.しんせつなやまごや2 back


突然降り出した雨、山深い谷あいの山小屋、赤い中華服、対峙するサーベルの切っ先。
シェン「おはよう、ジェフ、お前ずいぶんな寝起きだなあ」
語りかけた先の、息巻く男の瞳は赤く光り、肩は大きく上下し、サーベルを握る拳は僅かに震えていた。
ジェフ「まさか、こんなところで会えるとはな」
シェンは訳がわからなかった。
シェン「寝ぼけてんの?」
ジェフ「殺す」
ジェフは地面を蹴った。同時に自らの手首をサーベルで切り裂き、サーベルは真っ赤に染まった。

ジェフ「"血刀術"」

シェン「ん?」

ジェフ「"螺鈿"!」

まだシェンと距離があるところから、思いきり振りきられたサーベル。その勢いでサーベルについていたジェフの血は、シェンに向け弾丸のように飛び散った。それは針のように姿を変え、シェンに襲いかかった。シェンは横に大きく飛び、ごろりと肩から一回転すると、砂ぼこりを上げて着地した。シェンが立っていた場所に深々と刺さるは"血の針"。
シェン「ひぇ〜っ! なにすんだよ〜!」
ジェフは赤く光る瞳をシェンに向けた。




サーベルの切っ先に残る"血の針"に手を伸ばすと刀身全体に薄く伸ばした。
ジェフ「血刀術"鼈甲"」
サーベルを構えると同時に、刀身全体に伸ばされた血は刃とみね、それぞれの方向に広がり、サーベルは刀身が三倍以上に広がった深紅の両刃の剣となった。
ジェフ「……この90年、お前を殺す夢を見なかった日はない」

通り雨だったのか、雨は止み、雲は流れが早く、辺りは雲の影絵と月明かりの斑。

シェン「ジェフ、それ多分勘違い、お前寝ぼけてんだよ」
ジェフ「あー、寝ぼけている? ふざけんな!」
ジェフは剣を構え、再びシェンに襲いかかった。
シェン「ちょいちょい、」
「待って待って」と言いながら後ずさった足はばしゃりと音をたてた。雨水の水溜まりに足が入ったようだ。雲間から月が顔をだし、水面に光が照らされた。水面にはシェンが映るはずだった。だが、その水面に映ったのは、――長い髪の陰気な女




シェンはなるほどねとため息をついた。
シェン「ジェフ、俺はお前を"半吸血ヴァンピール"にした吸血鬼じゃない、術にかかってんだって、俺はシェンだよ!」
ジェフは足を止めた。
ジェフ「なぜそいつの名を知っている」
シェン「落ち着けジェフ、これは幻術だ!」
ジェフは剣を構えた。
ジェフ「そんな手にのるか」
シェン「ほんとだって! 多分"小屋テリトリーに入って次に目にした生き物が、最も憎んでいるものに見える"」
ジェフは一度寝て次に目にしたシェンの姿が、シェンは一度小屋から出て戻ってきたとき、ドア(小屋の外)から見た、部屋の中央に寝ていたジェフに対して幻術はかからなかったが、次に小屋の中で見た生き物――水溜まりに映る自分の姿が、それぞれ"最も憎んでいるもの"に見えている、というのがシェンの見解だった。

解説挿絵その2w

ジェフ「ばかげてる」
シェン「お前の獲物がこんなところにいるほうが"ばかげてる"、違うか?」
ジェフはサーベルを下ろした。
ジェフ「お前、本当にあの桃花源人か……?」
白目をむき、鼻を豚のように突き上げ、舌を思いっきり突き出し、シェンは笑った。
シェン「お前の獲物はこんな顔すんのかよ」
ジェフは声を上げて笑った。
ジェフ「ばかやめろって……つーか、この気持ち悪い幻術を解きてぇ……」
シェン「どっかに幻術の本体か術使ってるやつがいるはずだ」

だが、辺りは真っ暗で、頼りの月明かりは雲から覗いたり隠れたりを繰り返している。
ジェフ「"半吸血ヴァンピール"なめんな! 暗闇に隠れてようが、丸見えだよ」
シェン「え、ちょっと」
ジェフはなんだよとシェンに目を向けた。シェンはあたりをきょろきょろと見渡した。
シェン「リンリンがいない」





―――  trick beat(しんせつなやまごや2) ―――





2011.9.16 KurimCoroque(栗ムコロッケ)