「がっはっはっは! ちょっと見ないうちに立派になったのう!」
「恐縮です」
陽当たりのよい真っ白な病室――
真っ白なベッドに全身真っ白な包帯、どれもその豪快な壮年の男性には不釣り合いだった。
ミカエル元少将――強盗に遭い、重症だと聞いていたのだが……
ミカエルは笑った。
ミカエル「敬語の一つも出来んかった若造が」
ウランド「そんなことないですよ」
ミカエル「生意気さは相変わらずじゃな」
ウランドは目配せした。
グウェン「早速ですが元少将」
ミカエルは目を輝かせた。
ミカエル「おお! グウェン! 相変わらずでなによりだ! お前が諜報に行った時は悲しかったぞ!」
グウェンは苦笑した。
グウェン「仕事を進めても?」
ミカエルはアゴヒゲをジョリジョリと擦った。
ミカエル「うーむ、相変わらずいいのう、そのツレない感じ」
グウェンは腕を組んだ。ミカエルは窓の外を見た。
グウェン「犯人の人数は?」
ミカエル「とっさでわからなんだ」
グウェン「顔も?」
ミカエル「当然」
グウェンはミカエルのほぼ全身の包帯に目を向けた。
グウェン「何でやられたの」
ミカエル「刃物だとか、鈍器だとか、色々じゃ」
グウェン「犯人は複数なのね」
ミカエル「たぶんな」
ウランド「ミカエル少将」
ミカエルとグウェンは同時にウランドを見た。
ミカエル「……"元"少将じゃ」
ウランド「ええ、貴方は元トランプであって今はただの隠居魔導師です」
ミカエル「何が言いたい」
ウランド「よもやご自分で解決するとお思いではありませんよね?」
ミカエルは笑った。
ミカエル「なんじゃ、ワシがわざと情報を出しとらんように聞こえるか」
一切の迷いなく、ウランドは答えた。
ウランド「はい」
ミカエルはしばらく黙っていた。
ミカエル「……まったく、こんな性格の悪い男、さっさと別れたらどうだ、グウェン」
グウェン「話をそらさないの」
ミカエルは再び押し黙った。その時、ノックの音が室内に響いた。ミカエルの妻がウランドたちが持参したフルーツの籠盛りのいくつかを剥いて現れた。妻はニコリと微笑んだ。
妻「みなさんよろしければ」
ウランドは思い出した風を装おってカマをかけることにした。それは、この男がこのような状態であるのに、いるべき人間がいないことに疑問を抱いていたためだった。
ウランド「……お嬢さんはお元気ですか」
ミカエル夫妻の顔がひきつった。ミカエルはわざとらしい笑顔を浮かべた。
ミカエル「はっはっ! 娘のように可愛がっていたグウェンの次は本当の娘に手を出すつも、」
妻「ううう」
ミカエルの妻は突然泣き崩れた。ミカエルは苦虫を噛むように顔をしかめた。
ミカエル「相変わらずどうでもいい勘は鋭いやつだ」
グウェン「本当は何があったの?」
ミカエル「……言えん」
グウェン「事件現場は自宅だったわよね、伺っても?」
ミカエル「わしに了解をとる必要もないだろう」
ウランド「……"警護"として隊員を数名こちらに配置します。有無は言わせません」
ミカエルは乾いた笑みを浮かべた。
ミカエル「"監視"の間違いだろう?」
ウランドは無表情に切り返した。
ウランド「情報を持っているかもしれない貴方を、犯人はみすみす生かしてはおかないと考えています」
"これほどまで"の重症を負わせたのだ、当時犯人は殺すつもりでミカエルへ暴行を働いたに違いない。
ウランド「グウェン、本部に連絡してくる」
ウランドは足早に病室を後にした。
グウェンはミカエルにニコリと笑いかけた。
グウェン「ついでに、何度もいうけど、私とウランドが付き合っていたのはトランプに入る前だから」
ミカエルはウランドとグウェンが入隊し、ミカエルの部下であった頃から、二人を冷やかしていた。それがいつもの挨拶がわりだった。ミカエルは豪快に一笑いすると、突然険しい顔になった。
ミカエル「……この件からは手を引け」
グウェンは腕を組み、首をかしげた。
グウェン「なぜ?」
ミカエル「……お前たちのためじゃ、頼む」
ミカエルの妻は泣きながらミカエルの肩を揺すった。
妻「あなた……助けてもらいましょうよ……」
ミカエルは険しい顔つきで首を横に振った。
ミカエル「グウェン、ウランドにも伝えろ」
グウェンはクスリと笑った。
グウェン「伝えておくわ、だけどね少将」
グウェンは涙を流すミカエルの妻にハンカチを差し出した。
グウェン「トランプは世界の"切り札"、手を引くなんてことは何があってもあり得ないわ」

ミカエルは顔をしかめ、ガシガシと頭を掻いた。
ミカエル「忘れておった、トランプは世界の"バカの寄せ集め"だと」
グウェンはニヤリと笑った。
グウェン「思い出してくれた?」
――― A.(魔導師暴漢被害事件2 ) ―――
2011.6.11 KurimCoroque(栗ムコロッケ)