21.2.クラブ軍中佐隊規違反事件2 back


空は紺色とオレンジがせめぎ合い
黄昏の中でぼんやりと浮かび上がる人影


うらぶれた僻地の村はずれ
朽ちた要塞跡、生暖かい冷えた風
剥げた石畳の隙間を埋めるようにたなびく名もなき花
蕾はまだ、ない


要塞跡に未だ残る石壁
その影で数人の男たちが目深にフードを被った一人の男を囲んでいる。
取り囲むうちの一人が言った。

「ブツは?」
フードの男は微動だにしない。
「ブツはって聞いてんだよ!」
フードの男は口だけ動かした。フードの影で顔は見えない。
「取引する気があるなら来いと言った」
取り囲むうちのもう一人がフードの男の胸ぐらを掴んだ。
「だから来たんだろうが!」
ところがフードの中の瞳と目が合い、反射的に胸ぐらを放し、後ずさった。
フードの男はフードに手を掛けた。
「ではなぜトランプがいる」




「……随分鼻が効くのね」

石壁の影から現れたのは褐色の肌に長い手足の美女――クラブ軍中佐グウェン
「いつのまに!」
グウェンはニコリと艶っぽい笑顔を向けた。
「あなたたちが取引しようとしているものの入手ルートを知りたいの、教えてくれな」

ドガガガ!

フードの男の袖口から鋭利なトゲの生えた蕀の束が伸び、それらは取り囲んでいた男たちを一瞬にして串刺した。

場にはグウェンとフードの男二人きりになった。
生暖かい液体があたりの石畳を伝った。




グウェンは笑った。
「あなた……もしかして悪魔?」

フードの男は足元まで流れる血だまりをバシャンと蹴った。
それは瞬きする間もなくグウェンの目の前に。フードの奥に大量の蕀の束が覗く。

グウェンは背負っていた細身の槍を男目掛け突きだした。
槍は男の服を突き破ったが、何ら手応えなく、まるで服だけを突き刺したようだった。

代わりに男の体は蕀の束となり、ぐんぐんと伸びると、みるみるうちにグウェンはそれを後ずさりながら見上げることとなった。

男の頭だった部分は大人二人分ほどの直径の真っ赤なバラが咲き、バラの中央からはトゲだらけの蕀が複数蠢いている。
男の手足だった部分の蕀の束の先端にも真っ赤な花が咲き始め、それらの花の中央には牙だらけの口。

それらはあっという間に息絶えた男たちを飲み込むと、飲み込んだ口は平坦に閉じ、平坦になった花の中央にデスマスクのように飲み込んだ男たちの彫刻のような白い顔が浮き上がった。
息絶えた男たちの人数分の花は同時にグウェンにデスマスクを向けた。

グウェンは首を傾けた。
グウェン「余計な花を間引いてあげるから話を聞いてもらうわよ」

グウェンは槍をぐるりと回すと地を蹴った。




口を開けた真っ赤な花々がグウェンに襲いかかる。

グウェンは軽々と槍を振り回すと一瞬にして、そして正確に、迫り来る花たちの中央を貫いた。
そしてそのまま巨大なバラの懐に入る――

グウェン「これ、アーティファクトなの」

バラの花弁に足をかけ、中央で蠢く蕀のひとつをわし掴むと、蕀の根元に槍を翳した。

なんかどうなってるかよくわからない絵

グウェン「あなたたちが取引しようとしていたのはなに?」
グウェンの横からゆっくり蕀が伸び、先端についていた蕾から真っ赤な花が開いた。
その中央に光るのは――
グウェンは息を飲んだ。
グウェン「魔導師バッチ」
果たして偽造品か、それとも本物のロストバッヂか――
グウェンの注意が完全にバッチに向きかけた時だった。
グウェンの背後に音もなく迫る蕀、牙を剥いた真っ赤な花。
グウェン「しまっ…」
更に数本の蕀がグウェンの四肢に巻き付いた。
蕀のトゲはグウェンの美しい柔肌に食い込み、血が流れた。
グウェンは引きちぎろうと引っ張るがトゲはただただ深く突き刺さるばかり。
槍も別の蕀に奪われ、牙を剥く花弁の中央が大きく開いた。

その時だった。

ブチブチという不快音とともにグウェンを掴んでいた蕀たちは力を失い、崩れるように倒れた。




グウェン「…何をしてるの」
落下したグウェンをキャッチした太い腕。
その先の両手のひらは無数のトゲが突き刺さり、だくだくと流血している。
「それはこっちのセリフだよ」
グウェンの見上げた視線の先には見慣れたクロブチメガネ。

ウランドは後ろに大きく跳んで朽ちた城壁の上に着地した。
城壁の上に座らせる形でグウェンを下ろすと溜め息をつき、手に刺さったトゲをズルズルと抜いた。
ウランド「おまけに悪魔がらみとはね」
グウェン「…悪魔を引きちぎるなんて相変わらず常識はずれね」
※悪魔に物理的な攻撃は効かない

ウランドはトゲを抜きながら答えた。
ウランド「さすがに無理だよ、多分あれは本体じゃない」
この悪魔を攻略するには、幾つもの蕀の束蠢く中からグウェンのアーティファクトと、悪魔の本体を見つけ出さなければならないということだった。

グウェンはウランドの背中を目にし、尋ねた。
グウェン「手ぶらなの?」
ウランド「あいにくと、休暇の散歩中でね」
グウェンは笑った。
グウェン「そう、じゃあ悪いけど、この"寄り道"につきあってもらうわ」
ウランド「……君は本当、昔からそうだ」
グウェンはクスリと笑った。
グウェン「あなたもね」






―――  A.(クラブ軍中佐隊規違反事件2) ―――






2011.3.12 KurimCoroque(栗ムコロッケ)