20.3.魔導師反神使教派テロ加担事件3 back


カーミラ「またれよ、ウランド殿」
ウランド「誰が待ちますか」

黒い塔の最上階、窓一つない真っ白な部屋
コウモリの翼を生やし、スイスイと部屋中を飛び回る少女――カーミラと
魔導師の超人的な跳躍力で壁や天井を駆け回り、その追撃を紙一重にかわしてゆくクロブチメガネの男――ウランド

ウランド「通りで、"カーミラ"なんて吸血鬼の女性によくある名前だと思いましたよ」
カーミラ「お主、何者だ、人間の身のこなしではないな」
ウランド「…」

テロリストとはいえ、魔導師ではない、ただの吸血鬼だ。ウランドには攻撃を仕掛ける権限はない。
※トランプは検挙対象の魔導師以外は攻撃できない。
カーミラが攻撃を仕掛ける素振りもないためウランドお得意の"正当防衛"も使えない。
ウランド(このままじゃ無理矢理あの薬を飲まされるのがオチだな…)

ウランドはブツブツと呪文を唱えだした。
カーミラ「魔導師か!」
ふと、クロブチメガネに部屋の中央で玉座に座ったまま微動だにしない"ボス"と呼ばれる人物が映った。
カーミラ「カミュ!」
カーミラは玉座の"ボス"を守るように覆い被さった。




ウランドは聞こえないようにボソリと呟いた。
ウランド「…別に攻撃なんてしやしませんよ」
ウランドは壁に向かい手をかざした。
ウランド「小爆炎グラン・デ

ドガァン…!!

白壁の密室に風が流れる。
ウランドはニコリと笑った。
ウランド「…どうします?もし私があなたの"ボス"の命を狙う、よその団体の刺客だったら」
カーミラはウランドを睨み付けた。
ウランド「…貴女では魔導師に敵いませんよ、どうぞ"お宅の魔導師"をお頼りください」
「また伺います」と言い残し、壁に開いた大穴から、クロブチメガネの男は飛び降りた。
カーミラ「…」




黒い塔を正面に、建物の二階のカフェ。
ウエイトレスはまたかと呆れ顔で窓際を陣取るクロブチメガネの男にコーヒーを出した。

ウランド「ちょっとすいません」
ウエイトレスはウランドを見た。
ウランド「あの塔って、反神使教派の集団ですよね」
ウエイトレスは怪訝そうに眉根を寄せた。
「なに、入団したいの?」
ウランド「知り合いに"会いに来ただけ"なのですが」
「さっきカーミラに連れていかれていたじゃない」
ウランドはニヤリと笑った。
ウランド「交渉決裂です、…原因は私の無知にあったのかと」
「ああ、それでその質問」とウエイトレスは塔を一瞥し、鼻で笑った。
「ハンターズに行ってみな」

ウランドは「あれ?」と身を乗り出した。
ウランド「ありました?最初こちらに伺う前に探したのですが」
あの団体ハイヴに追いやられて町外れで隠れて営業してるよ」




渡された手書きの地図を頼りに行き着いた先は町外れの今は使われていない古井戸。
井戸に被された木蓋を開けると中に灯りが見える。
井戸を降りると陰気なバーが広がっていた。
ウランド(場所といい…裏ギルドじゃないの?)
カウンター越しに店員に尋ねた。
ウランド「ちょっとお伺いしたいのですが」
店員はニコリと笑顔を向けた。
「はいよ、何にいたしましょう」
店員はメニューを突き出した。
ウランド「…ブラックで」
店員はにこやかに椅子につくよう促した。
ウランド「"ブラック"ついでにいいですか、この町の"黒い"塔についての情報をいただきたいのですが」
店員は笑った。
「賞金稼ぎかい?止めときな」
店員は賞金首の手配書が無数に貼られた掲示板に目をやった。
その真ん中に何枚も同じ手配書が貼られていた。

――賞金ランクB "女王蜂"カーミラ

「ランクBだ、そんじょそこらの冒険者じゃ手ェだせないよ」
ウランド「…ふーん、その冒険者の相場みたいのは詳しくありませんが、カーミラさんが賞金首だということはわかりました」
ウランドはコーヒーを一口飲んだ。
ウランド「私は賞金稼ぎではありませんし、カーミラさんに用があるわけでもありません。」

ウランドはカーミラに着せられたローブを脱いだ。
シャツの胸ポケットと両袖にある紋章――
「あ、あんたトランプだったのか!?」

ウランド「あの団体に魔導師が二名所属しているはずなのですが」
店員は皿を拭く自らの手元を見つめた。
「一人はカーミラの賞金狙ってやってきた賞金稼ぎだ、"自分は魔導師だから大丈夫"とタカを括って"あのザマ"さ、もう一人は」
ウランド「"そのザマ"になった魔導師の件を調査しにきたトランプうちの諜報です」

ウランドはコーヒーを啜った。
ウランド「で、"あのザマ"ってなんなのですか?話を聞く限りは"自ら望んで"というようには聞こえませんが」
店員はニヤリと笑った。
「なんでも、"骨抜きの術"ってのを使えるって専ら噂だよ」
ウランド「骨抜き?」
そうしてチラリとウランドの左手薬指に目をやった。
「あんたもカーミラにかかったら嫁さんどころじゃなくなっちゃうかもよ」
ウランドは「ああ、そういう意味か」と再びコーヒーを啜りかけた。
しかし、その手を止めた。
ウランド「その噂って、どこから出たんでしょうね」
店員は笑った。
「んん?」

ウランドはコーヒーを見つめた。
ウランド「…」
    (賞金稼ぎのほうはともかく、うちの諜報まで)

赤い薬、
賞金稼ぎや諜報が町について最初に行く場所、
カーミラに薬を飲まされていたら決して漏れるはずのない"噂"、
カーミラに追いやられたハンターズギルド、
…ワンドリンク制

ウランド「…お手洗い借りていいですか」
「飲んでからにしなよ、今混んでるから」
店には店員とウランド以外人っ子ひとりいない。
ウランドは店員を無視し席を立った。

ウランド「ゲホッゴホッ」
口に指を突っ込み、先ほど飲んだコーヒーを全て出した。
僅かに身体が熱い気がする。
水道で口をすすぎ、腕で拭う。
ウランド(やってくれましたね…)
便所のドアを開くと、目の前には先ほどの店員。
瞳は不気味に青く光り、その手には包丁。
「…コーヒー…、飲み干すまで帰さないよ」
ウランドはニヤリと笑った。




ウランド「やっぱり」
便所の前で白目を剥いてのびた店員。
荒らされたカウンターキッチン。
荒らした張本人の手の中には瓶に入った大量のカプセル。
カプセルを開けると赤い粉。
ウランドはダルく熱っぽい身体をそのままに、ハンターズを出た。




―――  A.(魔導師反神使教派テロ加担事件3) ―――





2011.1.29 KurimCoroque(栗ムコロッケ)