その町は低く垂れ込めた分厚い雲に覆われて、昼間だというのに黄昏のようだった。
2,3階建の家々が並ぶ石畳の町。 その町の中央に家々よりはるかに高くそびえる窓一つない漆黒の塔。
山吹色のローブにこれまた山吹色のフードを目深に被った男たちが唯一の出入口を出たり入ったり。
その様子を、塔の正面にある建物の二階のカフェから覗く一人の男――"ハートのエース"ウランド
「どうぞ」
ウエイトレスが怪訝そうにウランドの前にコーヒーを置いた。
この男、これで何杯目だろう、かれこれ数時間こうして窓の外を眺めている。
ウエイトレスのその目は明らかに不審者を見る目であった。
ウランド「…どうも」
その視線を知ってか知らずかウランドは変わらずコーヒーをすすった。
ふと視線を感じ、窓からカフェのある建物の出入口付近まで目を落とすと、こちらを見上げる一人の少女。
少女は山吹色のローブを身にまとっていた。
ウランド「…?」
ウランドは再び視線を漆黒の塔の出入口にやった。
少女の姿は無くなった。
少しして
「もし」
声をかけられ振り返ると、そこには先ほどの少女。
16、7くらいだろうか、ふわふわのアッシュがかった金の髪に、深い空色のドングリまなこ、
そして、大きなフードのついた山吹色のコート
少女はじいっとウランドを見つめた。
「お主、"ハイヴ"に興味がおありか」
ウランド(お主?)「ずいぶんお若い養蜂家さんですね」
ウランドは興味ないと再び窓の外を見た。
少女はウランドの正面の椅子に腰掛けた。
「その"hive"ではない、見ておりましたぞ、朝からずっとあの塔を見ておられる」
ウランド「…そうですね、なんなんです?その"ハイヴ"というのは」
少女は目を輝かせた。
「あの塔の者たちのことだ、"腰抜けトランプ"の代わりに神使教徒どもを追い出す正義の使者、それが"ハイヴ"」
ウランドは組んだ足をブラブラとさせながら腕を組み、ニヤリと笑った。
ウランド「なるほど魔法圏の先頭に立っているはずなのに神使教との摩擦に腰が引けてる魔導師たちの代わりに
神使教と戦ってくれているありがたい集団、ということですね」
要するに、反神使教派のテロリスト集団ということであった。
少女は誇らしげに答えた。
「その通りだ、ワシはそのスカウト担当なのだが、お主はそうとわかってここへ来たのではないのか」
ウランドはコーヒーをすすった。
ウランド「いいえ、知り合いを訪ねに来ました。
現在ちょうどその"ハイヴ"のメンバーなのですが、案内いただくことは可能ですか」
少女は残念そうにウランドを上目遣いに見た。
「すまない、スカウト以外は外の者と接触することはかなわんのだ…」
ウランドはテーブルに頬杖をついた。
ウランド「ふーん、では私が"外の者"で無くなればよいということですね」
少女は憤慨した。
「我々は確固たる信念のもとに活動しておる!知人に会いたいなどという生半可な意思で入団されては困る」
ウランドは笑った。
ウランド「失礼しました、その"確固たる信念"とは"神使教を排除したいという気持ち"ということでよろしいですか」
少女はウランドの意図が解りかねた。
ウランドは窓の外を見た。
ウランド「いや〜本当、
乱暴だしタバコ臭いし、
不真面目だし、
いちいち反抗的だし、
ガキのクセに生意気だし、
目上を敬う気持に欠けてるし、
無意味に偉そうだし、
上から見下ろすし」
少女はきょとんとウランドを見つめている。
ウランドは少女を見、いたずらっぽく笑った。
ウランド「…職場の神使教徒の話です」
少女はまじまじと目の前の男のクロブチメガネの奥を見つめた。
「なるほど、神使教徒へ個人的な怨みがあると」
少女は右手を差し出した。
カーミラ「カーミラという、ようこそ"ハイヴ"へ」
ウランド「…どーも」
ウランドはニヤリと笑い握手に応じた。
――― A.(魔導師反神使教派テロ加担事件1) ―――
2011.1.15 KurimCoroque(栗ムコロッケ)