エルージュ「マジックワープなんて利用したの初めて〜」
平原のど真ん中で、二度目に現れたマジックワープを通った先は最寄りの街の路地裏だった。
エルージュはスキップしながら路地裏を抜け、石畳の広がる表通りに出た。
表通りは正午の活気に包まれ、平原で行われていた逮捕劇が嘘のようだった。
エルージュは背後のクロブチメガネの男を振り返った。
エルージュ「カフェに入りましょう」
ウランドはキョロキョロと辺りを見回しながら低くボソボソとした聞き取りにくい声で答えた。
ウランド「…手短にお願いします」
主婦たちや老夫婦、犬の散歩途中の若者など多くの人で溢れかえるオープンカフェ。
ウランド「…注文決まりましたか」
エルージュ「ええ、ブラックにするわ」
ウランドはウェイターを呼んだ。
ウランド「…ブラック2つ」
女は頬杖をついてニッコリとウランドを見つめている。
ウランドは無表情に顎を上げて腕を組んだまま脚を組み、そして背もたれに寄りかかった。
ウランド「…それで?」
エルージュ「あら、ツレナイ態度ね」
ウランドは表通りの人の流れに目をやった。
ウランド「…うちのスペードのエースがうっかりツツモタセジャーナリストの、
普段は断っている取材を受けたら、あることないこと好き勝手書かれましてね」
エルージュはクスリと笑った。
エルージュ「心外ね、ツツモタセだなんて、イチマツ氏には稼がせてもらったわ」
テーブルにコーヒーが出された。
ウランド「…言っておきますが、情報は各国代表へ出し終えました、
それを自国民にどこまで展開するかはお宅のお国次第ですよ、それ以上何もありません」
エルージュはコーヒーを一口啜った。
エルージュ「…取材を受けに来たっていうより、何もないことを説得しにきたってとこかしら?」
ウランド「…そうですね、どちらかといえば」
エルージュはニヤリと笑った。
エルージュ「その出し終えた情報は本当に全て?
たかだか新人魔導師の犯罪で、わざわざトランプの体制変えるほど?」
ウランド「現在の体制変更はノッシュナイド対策で体制を整えるためです」
ウランドはコーヒーを啜った。
ウランド(…"そこ"に引っかかっているのであれば残念ながら的外れですね)
エルージュは胸の谷間を強調するように身を乗り出した。
エルージュ「ねぇ、本当に何もないの?」
ウランド(…なんのアタリも根拠もない)
ウランドは左手の薬指の指輪をクルクル回しながら俯いて溜め息をついた。
ウランド「なぜこの取材をしようと考えたのですか?
叩いても出る埃なんてありませんよ」
エルージュ「本当かなあ〜…じゃあジパング人の件、ジパング国への対応…」
ウランドはエルージュの言葉を遮るようにドカリとテーブルに頬杖をついた。

ウランド「どうぞご自分の国へお問い合わせください、
…というか、何がしたいのですか、貴女は」
エルージュはキョトンとウランドを見た。
ウランド「全て国に問い合わせれば答えはあります、それをわざわざ魔導師に聞く意味はありますか?」
ウランドの口調はキツかった。
エルージュ「…えーと、……」
エルージュの切れ長の瞳からポロリと涙が零れた。
ウランド(ぎくっ)
ウランドは組んだ足をブラブラさせながら、空を仰いで固く目を瞑った。
ウランド「………貴女は仕事にプライドはおありのようだ」
エルージュは目を擦りながらウランドを見た。
ウランド「私にあれこれ言われて口惜しいのでしょう、見かけによらず負けず嫌いですね、
魔導師でないのが惜しい」
エルージュ「…」
エルージュはポカンとウランドを見つめている。
ウランドは伝票を手に立ち上がった。
エルージュ「あっ、ちょっと」
ウランド「私のことはどうぞ好き勝手お書きください、
ただし、ジパング人の件やトランプの特別体制の件であることないこと書いて、
世間に余計な混乱をきたさないように」
クロブチメガネの男はカフェを後にした。
エルージュは唇を噛み、拳を握りしめた。
背後で新聞をバサリと広げる音が響いた。
「ヘタクソジャーナリストが、早く情報入手しねぇと、…どうなるかわかってんだろうな」
エルージュは震える手をコーヒーに伸ばした。
エルージュ「…わかっているわ」
――― A.(ハートのエース不倫事件2) ―――
2010.12.11 KurimCoroque(栗ムコロッケ)