19.1.ハートのエース不倫事件1 back


カグヤ「記者が嗅ぎ回っている?」

――トランプ本部 ハートのキング執務室

後ろに組んだ手を閉じたり開いたり、
相変わらずじっとすることができないクロブチメガネの男は
目の前の上司の麗人にいつものボソボソとした独特の低い口調で報告をしているところであった。

そのいくつかの報告の中で上司が耳をとめたのは
"記者が現在のトランプの特別体制の理由を嗅ぎ回っているらしい"との報告だった。

カグヤ「ジパング人共犯者の件以外はノッシュナイドの件含め共有済みだ、
    それを自国民に伝えるかは各国次第のはず、それ以上何も出ないが」

ウランドは窓の外を見た。

ウランド「…まあ、まだ叩けば埃が出ると思っているのではないでしょうか、…そのジパング人共犯者の件とか」

カグヤは椅子に寄りかかり頬杖をついた。

カグヤ「ジパング人の件は何としても伝えるな、
    何も考えずただ単に真実を伝えるすなはち正義と勘違いしている人種だ」

ウランドは足元を見ながら答えた。

ウランド「…了解」

…まあ彼らすべてが正義と考えて仕事をしているわけではないと思いますが…

ヴァルハラ帝国の首都アヴァロンでかなり好き勝手しているスペードのエースは
それは面白おかしく事実を歪めて書かれている、
兎に角売れればいい、そういう人もいる。

今回嗅ぎ回っているその記者がどちらの人種か、それによっては対応を変える必要もある、
カグヤの命令をどのように実行するか、あれこれ考えながらウランドは次の仕事に向かった。

ウランド「…うちにも広報室とかあればいいのに」

ボソッと呟いた独り言は虚しく宙に消えた。




とある国国境付近、一面に広がる膝丈まで伸びた草の海。

複数人のトランプの隊員が一人の男を取り囲んでいる。

トランプの隊員たちはいずれも満身創痍、疲労困憊、一人の男に完全に翻弄されていた。

その現場に向かう途中、

「ハートのエースさんですか」

鈴を転がすような声、

見るとメモと鉛筆を構え、こちらを見つめる切れ長の瞳、ふくよかな唇に泣きボクロの美女

エルージュイメージ

ウランド「…そうですが」

ウランドは歩調を緩めなかった。

「W・B・アライランスの件でお聞きしたいのですが」

ウランド「…どちら様です」

「あっ!申し遅れました、私ジャーナリストの…」

女が名刺を取り出している間にクロブチメガネの男は目の前から消えていた。

「あれっ」

キョロキョロと見回すと随分先に先の男を見つけた。

女は急ぎ追い付くとめげた様子もなく再び口を開いた。

「エルージュといいます、ジャーナリストをしています、ところでW・B・アライランスの件なのですが」

ウランドは立ち止まった。

ウランド「…仕事なので」

エルージュの顔の前で制止を促すよう手のひらを向けた。

ウランドはエルージュが制止したことを確認すると複数の魔導師の集まりの中に身を投じていった。

エルージュ(ちょっとちょっと!あんな地獄絵図みたいな輪の中に平気で入ってっちゃうの!?)

ウランドは複数の魔導師を相手にしていた一人の男をたちどころに押さえつけた。




男は手錠をかけられ、突如中空に表れたブラックホールのような黒い渦――マジックワープにてセイラムに転送された。

他の魔導師たちも次々と転送されていく。

エルージュ「あっ!ちょっと!」

そうして残った最後の一人、ウランドはマジックワープではなくエルージュの方へ歩を進めた。

マジックワープの効力が切れ、黒い渦は消えてなくなった。

エルージュは腕を組んだ。

エルージュ「いいんですか、置いてかれちゃいましたよ」

ウランドはキュッとネクタイを正し、エルージュを見下ろした。

ウランド「構いません、一般人をこんな平原のど真ん中に置いていくと、何書かれるかわかりませんからね」

エルージュはニヤリと笑った。

エルージュ「なるほどね」

ウランドは溜め息をついて片手を腰に当てた。

それとほとんど同じタイミングで、風が草原を波打たせた。

ウランド「それで、W・B・アライランスの何を取材したいんですか」






―――  A.(ハートのエース不倫事件1) ―――





2010.12.4 KurimCoroque(栗ムコロッケ)