18.1.魔導師山賊事件 back


枯れた草木、積もった落ち葉、そこは水をうったように静かで、澄んだ空気は都会の喧騒を忘れさせてくれる。

「家を建てるならやっぱり緑が多いところがいいな」


とある山中。

積もった落ち葉の絨毯を踏みしめ、
山中だというのにワイシャツにネクタイという登山中だとは思えない格好の男が一人。

ライトブラウンの癖っ毛にクロブチメガネのその男は
今の仕事を辞めて、どこを新天地とするかと、あれこれ思案しながら山道を進んでいた。

考え事をしながらだったので気づいていなかった。


いつの間にか"取り囲まれている"ことに。


「よう兄ちゃん、インテリな格好して登山ってのは流行ってんのかい?」

木の影から、刃物を片手に簑を纏った薄汚れた男が一人。

それを合図に周囲の木々の後ろから次々と武器を手にした男たちが現れた。

クロブチメガネの男はようやく気付いたとぐるりと周囲を見回した。

「…忘れてた」

クロブチメガネの男の低くボソボソとした声は非常に聞き取りづらかった。

「おい、なんつったか聞こえねぇよ!ビビッて声でましぇんってか」

ギャハハと下品な笑いが巻き起こった。

「…道案内を頼みたいのですが」

「この状況わかってねぇな?てめぇはこれから山賊に襲われるんだよ!」

クロブチメガネの男はワイシャツの袖を肘まで捲り、腰に手を当てた。

「…誰か一人でいいか」




「ボス!大変です!」

山道からかなり外れた場所にある洞穴。

いくつも松明が焚かれ奥行がある。

その一番奥で行われていた荒くれ共の酒盛りは中断された。

出入口に立つのはボコボコにされた仲間の一人と、背後でその腕をひねりあげるクロブチメガネの男。

「…てんめぇ、何者だ!」

クロブチメガネの男はキョロキョロと辺りを見回し、奥に鎮座する大男を見た。

奥に鎮座する大男――山賊たちのボスはクロブチメガネの男のワイシャツを見、明らかに動揺し始めた。

ボス「な…なんたってトランプがここに!?そいつは一般人だぞ、暴力なんか振るって…」

クロブチメガネの男は両の手のひらを肩の高さに上げた。

捻り上げられていた男はその場に倒れ込んだ。

クロブチメガネの男は平然と言った。

「正当防衛ですよ、先に襲ってきたのはそちらですが」

「…てんめえ」

クロブチメガネの男は山賊のボスの所作を一瞥し、溜め息をついた。

「…魔導師犯罪というくくりでもピンキリだな…」

こんなレベルの低い相手を仕事とするのは新人の時以来だ、
クロブチメガネの男は妙な懐かしさを感じた。

山賊のボスは呪文を唱えだした。

「何言ってるかわかんねえんだよ!はっきり喋りやがれ!」

巨大な炎がクロブチメガネの男に襲いかかる。

「…悪いが、無駄にしていい時間はない」




とある国のとある山中。

長年近隣住民や旅人を悩ませていた山賊団が壊滅した。

怪我だらけで自警団に捕まった山賊団の一味は口を揃えて言った。

「クロブチメガネ怖い」

自警団が捕らえた山賊団のメンバーにボスの姿は無かった。

メンバーの一人が問うた。

「ボスは…?」

自警団の男は憧れと尊敬の念を籠めて答えた。

「セイラムにしょっ引かれたよ、ハートのエースによってね」






―――  A.(魔導師山賊事件) ―――





2010.11.6 KurimCoroque(栗ムコロッケ)