15.5.In the night! back


ウランド「…お前、自分の仕事しろよな」
トウジロウ「しゃあないやんけ、
      たまたまでも出くわしても〜たら、
      そら見過ごしたらあかんやろ」


ジャラル国北部の街エバル
トウジロウが"裏ギルド"だと案内された先は
ワケありのならず者を炭鉱の労働者として派遣したり、
娼婦として斡旋したりした派遣料、斡旋料で荒稼ぎを行っていた悪徳職業紹介所であった。
それだけであれば対魔導師犯罪警察組織トランプが手の出す範疇ではなかったが、
雇っていた用心棒が犯罪魔導師であったことがその紹介所の運の尽きであった。




エバルの自警団に連行されてゆくボスであった大男。
少女の目の前を通り過ぎたとき、少女は大男にすがりついた。
少女「ねえ!!これからどうしたらいいんだよ!!あたしの仕事は!?どうなっちゃうの!!」

大男は少女を突き飛ばした。
大男「うるせえぇ!俺が知るかよ!!」
大男は自警団に取り押さえられた。
大男「畜生め!!」

少女はよたよたと数歩後ずさるとトウジロウの元へ歩み寄った。
少女「ねえ…どうしてくれんのさ…ねえ!!」
少女はトウジロウのシャツの裾を思いっきり引っ張った。

ゴン

少女は頭のてっぺんを押さえしゃがみこんだ。
トウジロウ「シャツが伸びるわアホンダラ!」
ウランドはポツリと呟いた。
ウランド「…相変わらず最低なヤツだな」
トウジロウ「やかましいわボケ」

トウジロウはしゃがみこむ少女を見下ろした。
トウジロウ「自分で考えろや、"誰かが助けてくれる"いう甘っちょろいヤツはどこ行ってもダメや」
少女は泣き出した。





ゴン

トウジロウの後頭部にウランドの拳が響いた。
トウジロウ「何すんねんゴラァッ!!」
ウランドは少女の前でよっこらせとしゃがんだ。

ウランド「…家族がいるなら帰りなよ、
     君1人が苦しんで解決することじゃない。
     君はもう少し、家族に甘えてもいいんじゃないかな」

トウジロウは不味いものを食べたように顔をしかめ舌を出した。
トウジロウ「ゲロ甘やわ」
ウランド「…お前の根性論は耳が腐る」
トウジロウは指をバキバキと鳴らした。
トウジロウ「聞こえへんかったわ」
ウランド「…本人の耳が腐ってるなら仕方ないか」
トウジロウ「いてもうたる〜!!」
ウランド「トウジロウ!」




トウジロウ「なんや!」
ウランド「…お前の唯一の欠点は弱者を理解できないとこだな」
トウジロウ「必要ない」
ウランド「…1人進んで、誰も追いつけなくて、後ろを振り返ったら誰もいない、
     だからキングを降ろされたんだろう?
     お前は"あれ"から何も学ばなかったのか?」
トウジロウ「何があかんのか、未だにわかれへんわ。一つだけ言えることは」
ウランドはため息をついた。
トウジロウはニヤリと笑った。

トウジロウ「俺はジパング人、お前らは生まれも育ちも魔法圏、それだけや」

ウランドは部下に呼ばれ、そちらに向かった。
その去り際、ボソリと一言。
ウランド「…お前、手先だけは器用なのにな」

トウジロウは少女と2人になった。

ふと見下ろすと少女は涙の引いた目でトウジロウを見つめていた。
トウジロウ「…生きるには強なるしかない、
      親も兄弟も友人も、守りたいならもっと強なるしかない、
      俺はそうして来てん、
      どうするかは全部自分で決めなあかんし、
      それは全部自分の責任や、
      …俺は生きるいうことはそういうことや思てる」

少女は目の前のこの男のこれまでの人生を想像した。
きっと耐え難い苦痛や困難を、
強くなることで乗り越えて来たのだろう、
だからこんなことが言えるのだと。

少女「…どうしたらそうなれるの?」
トウジロウはタバコに火をつけた。
トウジロウ「自分みたいな凡人は、10年で100年分の苦労をするんやな」
少女「…」

トウジロウは自嘲気味に笑った。
トウジロウ「俺は1000年分やったけど」




ウランド「…これからどうするんだ?」
トウジロウは面倒だと盛大なため息をついた。
トウジロウ「裏ギルドが見つかれへんかったから、別の街に移動や」

ウランド「…ふーん、まあ頑張れよ」 ←興味なさげ
トウジロウ「自分なんで聞いてん!!」
ウランド「…まあ一応把握くらいはしておかないとな、仕事だ仕事」
トウジロウは鼻で笑った。
トウジロウ「冷たいわあ」
ウランドは呆れ気味にため息をついた。
ウランド「…なんでお前らの心配までしなきゃなんないんだよ」
トウジロウ「ハッ!そらそうや」
それから2人は拳をガツンと合わせると、それぞれの仕事へと戻った。


トウジロウ「リーダーはんリケはさぞかし順調なんやろなあ」




―――  N.B-Chase(In the night!) ―――





2010.7.4 KurimCoroque(栗ムコロッケ)