15.3.In the evening! back


ジャラル国北部炭鉱の街エバル

真横にかかるオレンジの夕日が男たちの影をより長く伸ばしている。

簡素な住宅街の狭い路地を抜け、現れたのは
見るからに陰気な、普通の人間ではまず近寄らないであろう酒場。

外壁は張り紙や落書きだらけ、周辺は吸い殻やゴミくず、嘔吐物ばかり、中には乾いた血痕も見受けられる。
チンピラどもに案内されて店の前についたトウジロウは、
タバコをふかしながら店の看板を見上げた。

トウジロウ「"不穏な休憩所アンレストラウンジ"?けったいな名前やの〜」

チンピラどもはトウジロウを酒場の中へ案内した。
酒場の中はまだ夕暮れだというのに酔っ払った荒くれどもがどんちゃんと騒ぎ、
割れた酒瓶が床一面に転がり、
部屋は一面醜悪な臭いが立ちこめていた。

トウジロウはニヤリと笑った。
トウジロウ「なんや、雰囲気ええトコやん」

部屋の隅にはゴロリと横たわる何人かの女性。
トウジロウ(…)
トウジロウはさらに奥の部屋に通された。




奥の部屋には、何か粉類が詰め込まれた袋が山のようにつまれ、
その山にはひとりの男が身を埋めていた。
その男は恰幅の良い、如何にも荒くれどもをまとめ上げているといった雰囲気を持った大男だった。
大男はトウジロウを睨みつけた。
トウジロウ「あぁ!?」
大男「なんだその坊主頭」

トウジロウをつれてきたチンピラどもはニヤニヤと笑いながら答えた。
「こいつ、この町に裏ギルドがないか探してるらしいんスよ」
大男はニヤリと笑った。
大男「ほー、ワケありか」

トウジロウの頭の先からつま先まで見回し、男はポンとトウジロウの肩を叩いた。
大男「ワケありでもいい仕事があんぜ」
トウジロウ「ちゃうわボケ、俺は仕事探しに来てんやのうて、」
大男は踵を返した。

大男「じゃあ用済みだな」
トウジロウ「ハァ?」




瞬時に、トウジロウの周りを大勢のチンピラが囲った。
トウジロウ「裏ギルドは仕事の斡旋しかせーへんの?聞いた話と随分ちゃうなァ」

チンピラどもは声を上げて爆笑した。
「お前、まだここが裏ギルドだと思ってんのかよ!」
「鈍すぎだろ!ダッセェ!ウケる!」

ブチン

と音が聞こえた気がした。
トウジロウはくわえていたタバコをポトリと落とし、足でグリグリともみ消した。
トウジロウ「こないピュアなお人好しダマして、自分らタダで済むと思うなよ?」

「ギャハハ!ピュアなお人好しっておま、」
チンピラの顔面にトウジロウの拳がめり込んだ。

ズガァン

殴られたチンピラの体は簡素な木製の壁を軽々と突き破った。




トウジロウはニヤニヤと笑い、ボキボキと指を鳴らした。
バッタバッタとチンピラどもが沈められてゆく様に大男は思わず尻餅をついた。
そうして自分が最後の一人になった時、
大男は恐怖で思った通りに声が出せないことに気づいた。

大男「ま、待ってくれ…謝る!」
トウジロウはニヤニヤしながら大男へ近づいてゆく。
大男「もも目的はなんだ!」
トウジロウ「ようやっと聞く気なったか、せやけどな」

大男の真ん前でトウジロウは歩みを止めた。
トウジロウ「その前に一発殴らせろや!」
大男「ひいぃぃぃ!」
大男は目を瞑った。

「やめて!!」




拳を振りかざしたトウジロウと身構える大男の間に飛び出したのは一人の少女。
トウジロウ「あ?自分、さっきの…」

街中で出会った娼婦の少女であった。




―――  N.B-Chase(In the evening!) ―――





2010.6.27 KurimCoroque(栗ムコロッケ)