15.2.In the afternoon! back


ジャラル国北部の街エバル
滑車の音が昼夜問わず鳴り響く炭鉱の街――

出稼ぎに来たよそ者は来れど、
旅人などほとんど立ち寄ることもないエバル。
ただでさえよそ者が目立つこの街で、その男はとかく目立った。

ジャラジャラと耳につけられた様々なピアス、
まくった袖の下から覗くタトゥーだらけの腕、
筋骨隆々としているうえに、背丈は2メートル近く、

そして何より、

黒い髪に黒い瞳。

すれ違う者たちはざわめいた。
「ジパング人…!」
「神使教徒だ!」
「ジパングにはサムライっつー凶暴で野蛮な僧兵がいるらしいぞ!」

男――イチマツ・トウジロウは退屈だと言わんばかりに大あくびした。
適当にひっつかまえたチンピラに、
この街に"裏ギルド"がないかどうか、捜させているところであった。




トウジロウ(ヒマや…)
ヒマを持て余し、入った酒場にはことあるごとに「ジパング人だから」と追い返された。

トウジロウ(バッヂつけとったら何や違たかもなあ)
トウジロウは他の魔導師の目がない時、魔導師のバッヂを外していた(←違反)
トウジロウ(重苦しいて肩凝るわ…どいつもこいつもようこんなんつけられるなあ)

トウジロウは煙草をくわえて火を付けた。
街中に煙る土埃。
それに遮られくすんだ日の光。
浮かべた煙草の煙と鳴り響く滑車の音。
暑くもなければ寒くもない、
気だるい午後。




トウジロウは辺りを見回した。
トウジロウ(娼婦のねーちゃんとかおれへんかな)

「お兄さん、ヒマならあたしと遊んでかない?」

背後から甲高い幼い声。
トウジロウは振り返った。
だが視界には誰もいない。
「ちょっと!お兄さん!下!もっと下!」

12、3の少女だった。

トウジロウはため息をついて再び歩きだした。
少女「ちょっと!お兄さん!今明らかに娼婦探してたでしょ!」
トウジロウ「他のお兄さんと鬼ごっこでもして遊んでもらい」
少女「ガキ扱いしないでよ!あたしこれでもベテランなんだから」
トウジロウ「そら将来が楽しみやな」

少女はトウジロウのゴツゴツとした太い腕を両手で掴んだ。
少女「お願いだよ!1人でも多く稼がなきゃなんだ!」




トウジロウは通常ならこの手を振り解いて無視を決め込むところだったが、何分ヒマだ。
少女の会話に乗ることにした。

トウジロウ「ほ〜入り用か」
少女「お父さん炭鉱夫だったんだけど体調崩しちゃって…
   お母さんも病気がちだし、妹や弟の世話で忙しいし…」

トウジロウはフーと鼻から煙を吐いた。
トウジロウ「25点やな、つまらん」
少女「作り話じゃない!本当に…」
トウジロウ「作り話やないにしてもや」
少女は思わず手を離した。

トウジロウ「お前みたいのは世の中ゴマンとおんねん。
      それに同情したるアホなんぞ
      ヒマな金持ちか世の中知らんすぎる蛙だけやで、甘いわ」

少女はキョトンとしてトウジロウを指差した。
少女「ヒマな金持ち」
トウジロウ「ちゃうわボケ、分かったら他当たれ」
少女は舌打ちした。
少女「ケチハゲジジィ」
トウジロウ「なんやと!」
少女は駆け足で路地裏に消えていった。




それから小一時間、
トウジロウは日当たりのよい店舗の壁際にしゃがみこみ、
煙草の吸い殻の山を作っていた。

もうじき山が崩れるか、というときに、
ようやくチンピラどもが現れた。

トウジロウはチンピラどもをボカボカと殴った。
チンピラ「何するんスか〜っ!」
トウジロウ「俺をいつまで待たせてんねん役立たずども」
チンピラ(怖ぇ〜!)

「こ…こちらです」
トウジロウ「お!あったか!」

チンピラどもはトウジロウに背を向け、ニヤリと笑った。




―――  N.B-Chase(In the afternoon!) ―――





2010.6.13 KurimCoroque(栗ムコロッケ)