ねえ。
初めてあなたに会ったのは、
山中でのサバイバル演習の時だったね。
「スナイド、見て、あの人」
友達の視線の先、
一際体格の良い黒髪黒目の男。
「ほら、例のジパング人の…」
スナイド「ああ、あれが」
「うちらより先輩のはずなのに、まだこの演習受けてるよ」
スナイド「単位落としたの?ダッサ」
当時から、言い寄って来る男はごまんといたけど、
どいつもこいつもあたしより弱いし、女々しいし、
男になんて、ちっとも興味持てなかったんだよ。
周囲から天才と呼ばれ続けてきて、
…正直、周りは自分より下だって、見下してた。
キリス「本演習を担当するキリス・シュナウツァーだ。
できない者、貧弱な者は置いて行く。
どうしたら評価されるかは、事前講習で話したな。」
キリスはくじの入った箱を取り出した。
キリス「班分けをする」
…今でもはっきり覚えてる。あたしがくじを引いたのは最後から2番目だった。
スナイド(…ん?クジが一つ足んない)
スナイド「マスター、クジが…」
キリス「どうした、ジパング人、あとは貴様だけだぞ」
スナイド(えっ?)
マスター・キリスは空の小箱に、さも最後のクジが入っているかのように箱をゆすったんだ。
そしたらあなた、ニヤリとしてこう答えたね。
「他の全員決まっとんのんやったら、
一人足りひん班がクジの中身やん。
それとも、ワザワザ取らなあかん理由でもあんの?」
あの時のキリスの顔、ホント今でも笑えちゃう。
「わースナイド!よかった!同じチームだ!
…けど」
友人は迷惑そうな視線をある一点に向けた。
「あのジパング人も一緒とか、最悪…」
あの子、あなたにわざと聞こえるように言ってたけど…やっぱり聞こえてたよね。
あれは演習の最終日だった。
ポカやらかして、崖から落ちかけた時だった。
山籠り用の荷物をすべて落とし、なんとか崖に手をかけ、
でも、疲労と恐怖で体がうまく動かなくて、
もうだめかと思った。
班員たちはみんな、演習の講習会のキリスの言葉を思い出し、
記録を優先して先へ行った。…当たり前だ。
けど、あなたは違ったね。
しびれてガクガク笑いだしたあたしの手を、
しっかりと掴んでくれた。
スナイド「なにやってんだよ!
あたしに恩でも売りたいわけ!?」
…あなたのあの呆れた顔…。
「アホか!オレがやりたいからやっとんねん!」
良い意味でも悪い意味でもマイペース。
班員の中でも知識、技術、何をとってもピカイチだった。
普通にやってれば、すんなり通れるのにさ。
班員に追い付きかけた頃だった。
「…あー、そうや、お前、オレ助けたったから、オレの荷物持てや。」
上がりかけてたあなたの評価は急降下。
スナイド(…女に荷物持たせるとか、マジサイテー。)
ヘトヘトになりながら、その日の夕暮にようやくゴール。
結局班員には追いつけなくて、うちら二人ビリッケツだったっけ。
キリス「荷物はどうした、ジパング人」
スナイド(あれ?)
「ない」
キリス「貴様…
演習のルールに、荷物も確実に持って帰るよう明示していたハズだが?」
確かにそうだった。
スナイド「待ってマスタ…」
「本番でも仲間より荷物を後生大事に持って帰れいうんか?
オレは意味ないルールには従わへん」
もー、あの時のキリスのキレっぷりといったら。
でも、後から聞いた話だけど、
キリスの授業のほとんど、
「ジパング人だから」
ってだけで、落されてたんだね。
スナイド「あたし、直談判してくるよ!許せない!」
「やめとけ」
あなたはこう続けたね。
「オレに文句ない実力さえあれば受かんねん。
別に騒ぐことやない」
スナイド「…」
驚いた、あなたのモノの考え方。
その後もいくつか同じ講義受けて、
だんだん仲良くなっていったね。
どの講義も優秀で、
本当に、
生まれて初めて、
この人は天才だと思った。
自分が恥ずかしくなるくらい。
あなたはあたしを妹分だと思っていたみたいだけど、
あたしは違ったよ。
何回告白したって、本命の彼女にはしてくれなかったよね。
何回か付き合ってくれたけど、
そのたびに「やっぱちゃう」。
…何が違ったんだろ。
そのうち、本命の彼女ができちゃってさ、
卒業して、トランプ入ったから、
あたしも後を追ってトランプに入った。
あなたはキングになって、あたしは中佐まで上り詰めた。
あなたのもとで働けて、
あたしは本当に幸せだった。
でもさ、本命の彼女が卒業するタイミングで結婚するって聞いてさ、
なんか、
なんだか疲れちゃったんだよ。
地位も仕事も全部捨てて、
今じゃただの賞金稼ぎ。
あの後、ちゃんと結婚したのかな?
キング下ろされちゃったって聞いたよ?
今までいろんな男に出会ったけど、
やっぱりあなたが一番。
あたしにとっては神だった。
ねえ、現スペードのエースさん。
あなたの心の中に、少しでもあたしがいてくれたら、うれしいんだけど。

――― 黒い三日月(夢到我) ―――
2010.4.24 KurimCoroque(栗ムコロッケ)