13.4.夢到我 back




ねえ。


初めてあなたに会ったのは、
山中でのサバイバル演習の時だったね。


「スナイド、見て、あの人」

友達の視線の先、
一際体格の良い黒髪黒目の男。

「ほら、例のジパング人の…」

スナイド「ああ、あれが」

「うちらより先輩のはずなのに、まだこの演習受けてるよ」

スナイド「単位落としたの?ダッサ」


当時から、言い寄って来る男はごまんといたけど、
どいつもこいつもあたしより弱いし、女々しいし、
男になんて、ちっとも興味持てなかったんだよ。


周囲から天才と呼ばれ続けてきて、
…正直、周りは自分より下だって、見下してた。



キリス「本演習を担当するキリス・シュナウツァーだ。
    できない者、貧弱な者は置いて行く。
    どうしたら評価されるかは、事前講習で話したな。」

キリスはくじの入った箱を取り出した。

キリス「班分けをする」


…今でもはっきり覚えてる。あたしがくじを引いたのは最後から2番目だった。


スナイド(…ん?クジが一つ足んない)


スナイド「マスター、クジが…」

キリス「どうした、ジパング人、あとは貴様だけだぞ」

スナイド(えっ?)


マスター・キリスは空の小箱に、さも最後のクジが入っているかのように箱をゆすったんだ。

そしたらあなた、ニヤリとしてこう答えたね。


「他の全員決まっとんのんやったら、
 一人足りひん班がクジの中身やん。
 それとも、ワザワザ取らなあかん理由でもあんの?」


あの時のキリスの顔、ホント今でも笑えちゃう。



「わースナイド!よかった!同じチームだ!
 …けど」

友人は迷惑そうな視線をある一点に向けた。

「あのジパング人も一緒とか、最悪…」


あの子、あなたにわざと聞こえるように言ってたけど…やっぱり聞こえてたよね。


あれは演習の最終日だった。


ポカやらかして、崖から落ちかけた時だった。


山籠り用の荷物をすべて落とし、なんとか崖に手をかけ、
でも、疲労と恐怖で体がうまく動かなくて、
もうだめかと思った。


班員たちはみんな、演習の講習会のキリスの言葉を思い出し、
記録を優先して先へ行った。…当たり前だ。


けど、あなたは違ったね。


しびれてガクガク笑いだしたあたしの手を、
しっかりと掴んでくれた。


スナイド「なにやってんだよ!
     あたしに恩でも売りたいわけ!?」


…あなたのあの呆れた顔…。


「アホか!オレがやりたいからやっとんねん!」


良い意味でも悪い意味でもマイペース。


班員の中でも知識、技術、何をとってもピカイチだった。


普通にやってれば、すんなり通れるのにさ。


班員に追い付きかけた頃だった。


「…あー、そうや、お前、オレ助けたったから、オレの荷物持てや。」


上がりかけてたあなたの評価は急降下。


スナイド(…女に荷物持たせるとか、マジサイテー。)


ヘトヘトになりながら、その日の夕暮にようやくゴール。


結局班員には追いつけなくて、うちら二人ビリッケツだったっけ。


キリス「荷物はどうした、ジパング人」

スナイド(あれ?)




「ない」

キリス「貴様…
    演習のルールに、荷物も確実に持って帰るよう明示していたハズだが?」


確かにそうだった。


スナイド「待ってマスタ…」

「本番でも仲間より荷物を後生大事に持って帰れいうんか?
 オレは意味ないルールには従わへん」


もー、あの時のキリスのキレっぷりといったら。


でも、後から聞いた話だけど、
キリスの授業のほとんど、
「ジパング人だから」
ってだけで、落されてたんだね。


スナイド「あたし、直談判してくるよ!許せない!」

「やめとけ」


あなたはこう続けたね。


「オレに文句ない実力さえあれば受かんねん。
 別に騒ぐことやない」
 
スナイド「…」


驚いた、あなたのモノの考え方。


その後もいくつか同じ講義受けて、
だんだん仲良くなっていったね。


どの講義も優秀で、
本当に、
生まれて初めて、
この人は天才だと思った。


自分が恥ずかしくなるくらい。


あなたはあたしを妹分だと思っていたみたいだけど、
あたしは違ったよ。


何回告白したって、本命の彼女にはしてくれなかったよね。


何回か付き合ってくれたけど、
そのたびに「やっぱちゃう」。


…何が違ったんだろ。


そのうち、本命の彼女ができちゃってさ、
卒業して、トランプ入ったから、
あたしも後を追ってトランプに入った。


あなたはキングになって、あたしは中佐まで上り詰めた。


あなたのもとで働けて、
あたしは本当に幸せだった。


でもさ、本命の彼女が卒業するタイミングで結婚するって聞いてさ、
なんか、
なんだか疲れちゃったんだよ。


地位も仕事も全部捨てて、
今じゃただの賞金稼ぎ。


あの後、ちゃんと結婚したのかな?


キング下ろされちゃったって聞いたよ?






今までいろんな男に出会ったけど、
やっぱりあなたが一番。


あたしにとっては神だった。


ねえ、現スペードのエースさん。


あなたの心の中に、少しでもあたしがいてくれたら、うれしいんだけど。


キツい性格のスナイドも恋する乙女(?)になればこんな感じになるのではという想像


―――  黒い三日月(夢到我) ―――





2010.4.24 KurimCoroque(栗ムコロッケ)