13.2.hard smooth back


「なに?ウーさんもスナイドも調子が悪い?」

「ああ、
 ウーさんは寒気がするから部屋に入るなだと。
 スナイドは体がだるいってさ」

「…昨日スナイド、ウーさんの部屋掃除するって言ってたな」

「…」

「…」

取り巻きたちはがっくり肩を落とした。

「ウーさん、手ェ早すぎっすよ…」

「オレの希望の光が消えたーーーっ!」


「ウーさんが何だって?」

声のほうに目をやると、そこにはスナイド。

「あれ?調子悪いって…?」

スナイドはニカリと笑った。

「半日寝たら治ったよ。
 それよりごめんね〜!これからお昼作るから!」

そういってキッチンへ走るスナイドを、
取り巻きたちは悲しげに見送った。



取り巻きたちの昼食を作り、
そのうち一膳を盆に乗せ、スナイドはロロの部屋に向かった。

――そろそろチルドされてる頃よね!――



ロロの部屋――

あまりの寒気にしばらく毛布にくるまっていたが、
吐く息で毛布に霜が降り、
体の芯から発せられる冷気に耐えかね、
ロロは昨晩からずっと熱いシャワーを浴び続けていた。

しかし、ロロの体に当たった水滴は
次々と凍りつき、
カラコロと音を立てて浴槽に転がり落ちた。

ロロ(だめだこりゃ…術者あのアマぶっ殺さねーと…)

ガタン!

何の遠慮もなしに浴室のドアが開いた。

ロロ「!」

扉を開けたスナイドはきょとんとしていた。

スナイド「あれ?まだ生きてる」

ロロはスナイドをにらみつけた。

ロロ「てめー…何しやがった」



スナイドは盆に乗せた料理をつまんだ。

スナイド「こっちのセリフだし!
     立てるようになるのに半日かかったよ、なんなの、アレ」

ロロ「先に質問したのはおれだ、答えろ」

スナイドはロロを見た。

スナイド「あ、黒髪短髪の全身イレズミ…」

ロロ「おい」

スナイド「あー!よく見たら並みの魔導師以上の鍛え方じゃん!?
     普段あんだけ動いてないのに!!
     それとも隠れて運動してるとか?」

ロロ「…おれと話す気なさそうだな」

スナイド「…耳もピアスジャラジャラだし…
     似てないのは背と性格かぁー」

ロロ「…ハァ!?」

スナイドはポイと盆を投げ捨てた。

ガシャンと音を立てて料理が浴室に散らばった。

スナイドは二コリと口を開けた。

スナイド「そんだけ弱ってたら敵じゃないな。
     このままハンターズにしょっ引いてあげる。」

ロロはニヤリと笑った。

ロロ「なんだ、賞金稼ぎハンターか」

スナイドは少しムッとした。

スナイド「不利なクセして何笑ってんのよ。
     …ならついでにもう一つ教えてあげる」

スナイドは艶やかな唇に人差し指を当てた。

スナイド「元トランプの賞金稼ぎハンター"凍てつく小鳥"スナイド・ハロウィンってあたしのことだよ。」

賞金稼ぎハンター "凍てつく小鳥"
若くしてトランプの中佐まで上り詰めた天才女魔導師。
トランプ時代のノウハウを生かし、お縄にかけた賞金首は数知れず、
かなり名の知れた賞金稼ぎハンターである。

スナイド「あんたがこれまで殺ってきたシロート魔導師たちとはワケが違うよ。
     観念しな!」

ロロ「…あんた、神に逢ったことはあるか?」

スナイドは"何言ってんだコイツ"と怪訝そうな顔を浮かべた。

長い髪をかきあげ、呼吸を置いてから、スナイドは答えた。

スナイド「あるよ」

ロロ「…!」

スナイドは満足げに穏やかな笑みをたたえた。

スナイド(…そう…あたしにとって、"あなた"は神に等しかったんだ)

ロロは舌打ちした。

スナイド「あ?何?
     もしかして何かの術のトリガだったとか?
     …ってそんなわけないか!
     札は昨日全部燃やしたからね、アンタはもう術が使えない」

スナイドはアハハと腹を抱えて笑った。

スナイド「アンタほどじゃないけど、
     ほかの黒い三日月のメンバーもチョロチョロ懸賞金かかってるからね、
     アンタ始末したら次はあいつらだよ。
     だからさっさと大人しく…」

ロロはシャワーを止めた。

たちまち、ロロの体から発せられる冷気で
浴室が、そしてロロ自身も凍りつき始めた。

スナイド「あー、なるほど、アンタの氷漬けを持って行けって?」



ロロ「おれのもんに手ェ出そうなんざ、
   あきれた女だ。」


スナイドは腰に手を当てた。

スナイド「鼻水でつらら作りながら何言ってんのよ」

ロロはバリバリと体についた氷を落しながら浴室を出て服を着た。

スナイドはあきれた。

スナイド「何やってんのよ」

ロロ「一瞬でもパラダイスおれのものだった情けだ。
   丁重に地獄に送ってやる、
   表へ出な」

スナイド「アンタねえ…そんな状態で」

ロロ「トランプだか何だか知らねーが、
   おれを殺れるのは豆腐の角くらいだぜ」

スナイドから「カチン」という音が聞こえたようだった。

スナイド「あたしは豆腐以下だって!?
     いい度胸じゃない、
     その馬鹿さに免じて、あたし直々に地獄に送ってあげるよ」




―――  黒い三日月(hard smooth) ―――





2010.4.10 KurimCoroque(栗ムコロッケ)